こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】活性酸素と造血幹細胞の老化~その2~

前回記事の続きです。

 

前回記事はこちらです。

【文献紹介】活性酸素と造血幹細胞の老化~その1~ - こりんの基礎医学研究日記

 

 

Reactive oxygen species and hematopoietic stem cell senescence
Lijian Shao, et al. International Journal of Hematology volume 94, pages24–32(2011)

 

Mechanisms of action of ROS ~活性酸素のアクションのメカニズム~

活性酸素は濃度依存的にHSCの機能を制限する。

・低いまたは適切なレベルの活性酸素がHSCの分化・増殖には必要なようである。

例えばALT1/2ダブルKOマウスからのHSCは移植後に長期の再構築能に問題あり

→これは活性酸素産生減少が原因。低用量pro-oxidant L-buthionine-S,R-sulfoximine (BSO)を投与し活性酸素が適度に上昇すると増殖性が増す。

・しかし高濃度の活性酸素はin vivoでもin vitroでもHSCに有毒。上記ノックアウトマウス放射線照射をすると活性酸素が増加しHSCの老化と早期消耗につながる。

活性酸素がHSC損傷を誘発する機序…HSC細胞周期を刺激することによってHSCの静止期を阻害する。→HSC自己複製を促し、早期消耗につながる。

活性酸素増加はHSCの老化・アポトーシスにつながる可能性あり。

活性酸素増加によってDNA2重鎖損傷が増加する。

・ATM, Chk2, p53の活性化によってDNA2重鎖損傷修復応答をする。

 

HSC senescence ~HSC老化~

・ヒト二倍体線維芽細胞の成長には限りがある→テロメア長によって決定される。

・テロメラーゼを発現させないとDNAが複製されるたびにテロメア配列が短くなる。Hayflick限界と呼ばれる特定の数の細胞増殖の後にテロメアが一定の長さまで短くなると細胞はG1期で分裂を停止し、replicative senescenceへ。

・replicative senescenceは胚性幹細胞と大部分の腫瘍由来細胞以外の細胞で起こる。→これらの細胞は高レベルのテロメラーゼを発現する。テロメラーゼ活性低下は、HSC機能低下につながる。テロメラーゼ欠損症患者でテロメラーゼ逆転写酵素の変異が起こると再生不良性貧血や骨髄不全が起こる。

・しかしテロメラーゼ逆転写酵素過剰発現でHSC寿命延長が可能かというとそれは困難。HSCの細胞腹勢力は有限なのか?広汎な増殖後にreplicative senescenceが起こるのかはいまだ議論の的。

・多くのヒト・動物細胞は種に依存しない酸化・遺伝毒性ストレスにさらされた後に老化する。発がん性ストレスを受けた場合などにも活性化する。

・酸化的、遺伝毒性、発がんストレスによって誘発される老化は、replicative senescenceとは異なるため、これと区別するために、premature senescenceと言われることもある。

・ストレス誘発性のpremature senescenceを経験している細胞は、テロメアの有意な短縮なく寿命が短くなっている。

・しかしpremature senescenceとreplicative senescenceは形態的には区別がつかず、特徴も似ている。

・HSCは老化する?Bmi-/-マウスは進行性の骨髄低形成を示し、早期に死亡することが分かった。胎児肝中にあるHSCは移植後に一時的な再増殖能を示すも長期生着を得ることはできない。

Bmi活性酸素ミトコンドリア産生も調節する。活性酸素を制限すことで細胞がpremature senescenceを起こさないようにしている。

・ATM-/-マウスは自己複製の問題があるが、テロメラーゼ逆転写酵素過剰発現でもこれは改善しない。→ATMはテロメアに依存しないメカニズムを介してHSC自己複製を行っている。

 

Role of p16 in induction of HSC senescence ~Hp16によるSC老化の誘発~

・Ink4a-Arf遺伝子座は2つの腫瘍抑制因子であるp16とArfをコードしている。

・p16は強力なCKD4/6阻害剤。CKD4/6阻害によりE2F依存性遺伝子の発現を抑制する→G1/S細胞周期の進行が制限され、senescence-associated heterochromatic foci (SAHF)が形成される。

・p16-Rb経路の関与後にSAHFが形成されると細胞は永久的に成長が停止し、老化する。

・p16が高度に発現するとp53のダウンレギュレーションによって不可逆的な細胞周期停止に至る。p53-p21経路活性化が老化開始に重要な役割を示すことを示しているが、老化の維持にはp16の誘導が必要。

放射線照射によって、p16誘導前にHSCのp53活性化とp21発現が誘導される。

・p16発現はBmi1-/-HSCで見られ、老化の誘導に重要である。

・p16とArf遺伝子を両方ノックアウトするとin vitroでのHSCクローン増殖が有意に増加。In vivoでのHSC自己複製が適度に促進される。

 

Role of p38 in induction of HSC senescence ~HSC老化誘導におけるp38の役割~

・p38はシグナルデンタルキナーゼのMAPKファミリーに属している。

・酸化ストレスにさらされた後に準じ活性化される。

・炎症、細胞周期停止、アポトーシスなど様々な細胞プロセスを調節する。

・p16アップレギュレーションを介した老化誘導にも重要な役割を果たす。

・RasやRafの活性化→p38の持続的活性化を刺激→p16の発現をアップレギュレート

・p38経路活性化→遺伝毒性及び酸化ストレスへの曝露から生じるDNA損傷やテロメア短縮などを含む他の刺激に応答したp16と細胞老化誘導に寄与する。

・p38経路の抑制は、発がん性ストレス、DNA損傷、テロメア短縮によるp16及び細胞老化の誘導を減衰させる。

・p38活性化は再生不良性貧血や骨髄異形成症候群などで観察される。

・p38がp16をアップレギュレートし老化を誘発するメカニズムは未だ十分にわかっていない。