こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】オートファジーは造血幹細胞機能を維持する

抄読会で扱った文献の紹介です。

 

オートファジーについては以前にも記事を書きました。

teicoplanin.hatenablog.com

 

今回は上記のさらに発展した内容です。

まずオートファジーについておさらいです。

オートファジーAutophagyとは

古くなったタンパク質などを細胞自身が必要に応じて分解し、新しいタンパク質合成などに役立てる。

→これによって細胞機能を維持する機構のこと。

先述のブログの通りオートファジーには3種類あります。

マクロオートファジー(Macroautophagy)

メインのオートファジーとされています。細胞質成分やオルガネラを包み込んだオートファゴソーム(autophagosome)と呼ばれる小胞が、リソソーム(lysosome)と融合してオートリソソーム(autolysosome)を形成し、包み込んだ内容物を分解します。

マイクロオートファジー(Microautophagy)

リソソーム膜が陥入して直接細胞質成分を取り込み、その内部で分解します。オルガネラ量の調節、膜の恒常性維持、窒素不足の状態での細胞の生存に重要であると考えられています(Li et al., 2012)。

シャペロン介在性オートファジー(CMA)

細胞質内のタンパク質とシャペロン・タンパク質との複合体をリソソーム膜上の受容体 LAMP-2A(lysosomal-associated membrane protein 2A)が認識してリソソーム内に直接取り込み、高次構造を解いて分解します。

出典:オートファジー概論 | アブカム

 

 オートファジーというとだいたい上の3つの中のマクロオートファジーのことを指すのですが、今回はシャペロン介在性オートファジー(CMA)に注目してみます。先月のNatureの文献です。LAMP-2Aが次に紹介する文献でもキーポイントになります。

 

Dong S, et al.

Chaperone-mediated autophagy sustains haematopoietic stem-cell function.

Nature. 2021 Jan 13.

  • 若いマウスではCMAが活性化されているが高齢マウスではあまり活性されていない。
  • 若いマウスのCMA活性化は5FU投与でより活発になる。→通常、HSCの大半は休止期にあるが、5FU投与によってこれがActiveになる。HSCがActiveになるとCMAはより活性化される。
  • また活性化されたHSCが枯渇するのを防ぐ効果もCMAにはある。
  • LAMP2AをKO(ノックアウト)したマウスでは移植後生着能が低い。
    →CMAはfunctional stem-cell維持(self-renewalの維持)に重要!
  • KOマウスでは…
    ・G0基の細胞多い(=細胞周期回らず)
    ・ATP産生低下
    ・ROS蓄積多い
    ・解糖系や死亡体shが抑制される
    →これらによりタンパク質恒常性が損なわれる→HSC機能低下につながる
    (これらの反応はHSC特異的。他の前駆細胞などでは見られず。)
  • 高齢マウスでLAMP2Aを強制発現させるモデルを作るとこれらの影響は解消される。(ただし若齢マウスに過剰発現させても特に恩恵はなし)
  • 経口でCMA activotor投与してもこれらの影響を打ち消せる。

  • まとめ
    高齢マウスではCMAが徐々に低下。これにともなって解糖系抑制、脂質代謝抑制などが起こり、ROS蓄積や細胞周期遅延、DNA損傷などにつながり、タンパク質品質が維持できなくなり、HSC機能低下につながる。しかし補充によってこれを打ち消せるかもしれない。

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