本日は臨床の話題です。先日の当直で、脊髄損傷の患者さんを診たので、その関連の論文を読んでみたいと思います。
まず、日本語文献から(日本での)疫学など一般的なことを紹介します。
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【疫学など基礎情報】
・100万人当たり40.2人、年間5000人程度発生
・男性約80% 交通事故44% 転落29% 転倒13%
・発症年齢は20代、60代で二峰性のピーク
・頚髄75% 胸腰仙椎25%
・完全損傷26%
・頚髄損傷の中で単純X線刷正常骨損傷のないものが56%
最後のは驚きですね。MRIはすぐに撮れないこともあるのでCTがkeyになるのでしょうか。
参考文献:鈴木晋介「脊髄・脊椎損傷の急性期治療」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/25/1/25_50/_pdf
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次に英語文献のご紹介です。
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Emerging therapies for acute traumatic spinal cord injury
【Introduction】
・高齢化に伴い、高齢者の転倒関連の脊髄損傷は増加すると予想される。
【神経損傷のメカニズム】
・外傷などの外力による直接的な損傷である一次損傷と、一次損傷を契機とした組織破壊である二次損傷がある。
・二次損傷は、脊髄組織の虚血・低酸素、フリーラジカル形成や興奮性神経伝達物質グルタミン酸など毒性物質放出によって神経組織が障害されることによっておこる。
→主に二次損傷が治療の対象となる。
【急性期管理・治療法】
・急性期には低血圧を回避(MAP85-90mmHg)→神経学的予後改善、死亡率低下につながる。
・重症患者はICUへ(ICU入院は神経学的予後改善、死亡率低下と関連)
・外科的減圧:早期(損傷後24時間未満)の減圧手術は有意に神経学的予後改善。
・頚椎脱臼症例では非観血的清福にて頚椎の安定性を確保したのちに手術が行われる。
・低体温療法:33℃程度の低体温療法で神経学的予後が改善する可能性がある→エビデンス不十分であり、今後の臨床試験待ち。
・メチルプレドニゾロン:損傷後8時間以内に開始される24時間のメチルプレドニゾロン注射は神経予後改善に関与。しかし創傷感染と消化管出血が増加。→治療オプションとして考慮。
・その他の薬剤:ナロキソン、GM-1など…十分なエビデンスなし
・現在開発中に薬剤:リルゾール(ALS治療薬)、ミノサイクリン、繊維芽細胞成長因子、セトリンなど…いずれも第3相試験では結果出しておらず
・細胞移植:幹細胞or自家非幹細胞移植。未だ十分なエビデンスなし。対照試験が未だなく、自然回復なのか移植による回復なのか区別ができない。
【架空症例を用いたレビュー内容の適応・検証】
<症例>25歳男性
・交通事故にて頚椎損傷
・C5以下の運動、感覚障害あり
・CTでは頚椎の脱臼・骨折
<治療・管理>
・酸素化、血行動態の安定化、固定を実施
・必要に応じ昇圧剤投与とボリューム負荷
→血圧はMAP85-90mmHgを1週間維持
・ICU入室し外科チームと24時間以内の手術の検討(1週間はICU入院)
・メチルプレドニゾロンは合併症の増加の可能性あり投与せず
<<感想>>
脊髄損傷に関して救急外来でできることは限られていそうです。頚部固定と血圧管理が主なところでしょうか。血圧は敗血症などより高めに血圧を維持する必要があるようで、これは今後の症例では注意したいと思います。
(先日診た症例は当院では対応が難しく、大学病院に搬送されましたが、その瞬間にA line挿入されておりました。)