こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【セミナー要約】直腸がんの治療

昨日受けたセミナーの要約です。

 

自分用の備忘録的な感じです。

 

1. 直腸がんの集学的治療

・大腸がんに対する術後補助化学療法…リンパ節転移があった患者に対する化学療法
 →いくつもの臨床試験が行われており、十分に確立している。
・直腸癌…大腸がんの中でも予後が比較的悪い。
 ・狭い骨盤腔内に発生しマージン確保が困難で適切な切除が困難
→局所再発が多い!局所再発率は、結腸癌1.8%に対し直腸癌8.8%!!
 ・肛門が近い…温存できる?→残せても排便機能に影響出ることが多い。
  肛門周囲には自律神経多数あるため排便や排尿への影響が出やすく、QOLへの影響が多い。
  交感神経:蓄尿・射精
  副交感神経:排尿・勃起

放射線化学療法>
放射線療法は1950年代と古くから米国では行われていた。日本では採用術式が米国と異なり、術前上斜線療法には昔から消極的。
・現在では、切除が難しい(大きいorリンパ節転移あり)の場合は術前放射線化学療法も!
・術前治療によってリンパ節転移が消失する場合も!
・特に放射線治療+化学療法によって完全奏効率や無再発生存率、全生存率も化学療法によって向上。特にこれまで使われてきたUFT/VLに加えCPT-11(イリノテカン)の併用は予後改善に効果的であることが近年明らかになってきた。
・Hypoxia-inducible factor (HIF)-1αががんに対し有利に働く。
放射線を当てるとそれに抵抗しようとして(がん細胞の死滅を抑えようとして)HIF-1αが増加。ここにSN-38(イリノテカン代謝産物)を投与するとHIF-1αの増加が抑えられる。
・手術マージンの確保のために放射線化学療法が有効。肛門温存が可能になる症例も!
・術後化学療法の有効性は?直腸癌に関しては結腸癌ほどの結果は出ていない。
→これにはコンプライアンスの問題も…術前化学療法と手術だけで4-5か月かかるため、術後の化学療法まで施行できない場合もしばしばある。
しかし術前化学放射線療法+手術だけでは遠隔転移を十分に抑えられない…。
・手術までで完結できないか?
→これを実現しようと現れたのがネオアジュバント療法
例) Induction療法→化学療法→放射線療法→手術 
先に放射線療法を行う場合や、化学療法の反応がよければ放射線療法を省略する場合もある(放射線治療不妊などの有害事象につながる)。いずれの場合も手術によって治療を完結できるようになることを目指している。
 ・化学療法→放射線療法の順番だと、化学療法の反応を見て、再発時の化学療法の参考にしたり、化学療法反応性が悪かった場合には、その後の放射線照射量を上げたりするなどの対応を取ることもできる。
 ・免疫チェックポイント阻害薬
 がん細胞は通常、自身の免疫(T細胞)によって攻撃を受けるはずだが、がん細胞がPDL1を発現していることによって、この機能を回避し(T細胞を不活化)生き延びてしまう。PDL1をブロックするのが免疫チェックポイント阻害薬。
 ・化学療法の反応が良い人(CR)には本当に手術は必要?局所切除だけか手術なしでもよいのでは?
→反応良好な方では手術しないで済む場合もあるが、局所切除した後やはり追加切除(永久人工肛門)が必要な患者も…まだ十分に安全とは言えない。
Complete CRの患者のうち3/4は再発なく残りの1/4もその時点で切除すればOKという報告も。
→症例の選択を十分に吟味する必要がある。拡大手術を遅らせたことで多臓器に再発が起きてしまう症例も…。

2. 直腸がんの腹腔鏡下手術
・腹腔鏡手術は日本においては2000年以降大幅に件数増加。
・しかし日本のガイドラインでは慎重。腹腔鏡と開腹は大腸がんにおいてはおおむね同等の成績だが、直腸がんに関しては若干成績悪い(切除不完全な例が出てきてしまう)。
→骨盤内という限られた空間の手術になるため主義的に困難。
・ここで登場したのがロボット手術(もともと戦場の負傷者を本国の医師が手術するために開発)…しかしロボットに対する確固たるエビデンスはなし。腹腔鏡との大きな差はなし。
・日本では手術分化が欧米と異なる。日本国内でのエビデンス確立が必要。
・直接触ることができないというデメリットがあるため、これを解消するための手段としてシミュレーションやナビゲーションなどの開発が進んでいる。