ショウジョウバエの造血の基本については以下の通り。
Drosophila(ショウジョウバエ)における造血と寄生蜂侵入時の反応 - こりんの基礎医学研究日記
【文献紹介】ショウジョウバエにおける造血幹細胞 - こりんの基礎医学研究日記
抄読会で発表したことのメモです。
****************************************
Single-cell transcriptome maps of myeloid blood cell lineages in Drosophila
Bumsik Cho, et al.
Nature Communications volume 11, Article number: 4483 (2020)
実験の目的
- Single-cell RNA sequenceを用い、ショウジョウバエリンパ腺における血球分化の分子基盤、遺伝調整ネットワークを明らかにする。
- 寄生蜂の卵の侵入時のラメロ細胞分化のしくみを解明する。
Result&Discussion
- 産卵後72時間、96時間、120時間後のショウジョウバエ幼虫のリンパ腺を解析。
→主要8種類の血球をsingle cell RNA解析。 - これまで見つかっていなかった2種類の血球:GST-rich細胞、脂肪細胞を同定。→GST-rich細胞は中間血球(未熟な血球と成熟血球の中間)でありストレス応答に関与か。また脂肪細胞は脂肪代謝に関与。
- 産卵から時間が経つにつれてprohemocyet(前血球)の割合が減り、plasmocyte(形質細胞)が増加していく。
- サブクラスター解析→前血球は6クラスター、形質細胞は4クラスターに分けられる。
- 擬似時間軸解析によって血球分化の経路を解析。
※Monocleを用いたpseude-time course(疑似時間軸)解析
遺伝子発現状態が近い細胞を関連付けさせることで、分化状態に対応させ、細胞を時系列的に並べ替える解析。
→時間ごとの血球解析(72→96→120時間)と疑似時間軸分析の結果はよく相関。 - 前血球6クラスターのうち、PH1を分化のスタートとして時間軸分析。
(Notch, shg発現レベル、高レベルの分裂遺伝子発現が見られたことからPH1をスタートとした) - 以下のような分化経路をたどる。
- 今回新たに同定された細胞(群)であるGST-rich細胞、PH4、PM1は、成熟血球マーカーがあまり発現していない。
→前血球から成熟血球に移行する間の中間血球細胞 - 中間血球のさらなる分析で中間血球細胞マーカーNplp2を発見。
- 血球分化のスタートであるPH1はPSCと相互に作用しあいながらDelta/Notch経路JAK/STAT経路を介しつつ調節を受ける。産卵後72-120時間のあいだ存在しつづけ血球を産生する。
→PH1は哺乳類におけるHSCに相当 - 【寄生蜂侵入時の血球構成の変化】
通常時にほとんど見られないラメロ細胞の割合が大きく増加。
→この経路をやはり疑似時間軸分析で解析。 - ラメロ細胞の出現は主に2つの経路から
①PH4【前血球】から…血球増殖・DNA複製・翻訳関与する遺伝子発現↑
②PM1【形質細胞】から…代謝関連遺伝子の発現↑
今回の実験を通して分かったことまとめ
- Single cellレベルでの血球の発達
- HSC様細胞集団の同定
- 能動免疫における骨髄様血球の分化機構
- 胚性期由来血球と幼虫由来血球の類似点と相違点→これはブログでは触れず
これまで分かっていなかった新たな血球が同定。
- GST rich細胞:前血球の段階で発生。ストレス応答に関与か。
- Adipohemocyte(脂肪血球):産卵後120時間でのみ出現。形質細胞の特徴と脂質代謝能あり。
その他に分かったこと
- 前血球…以前は均一な集団と考えられてきたが今回その不均一性が明らかに。
- 中間血球の存在とそのマーカーNplpが同定された。
- 最もナイーブな前血球PH1が同定された。より詳細にこの元をたどるには1令虫の研究が必要。(今回は2令虫、3令虫のみの解析)
- 寄生蜂侵入によって
–ラメロ細胞分化が促される。(PH4orPM1から分化)
–PH1↓PH2↓PH4↑ラメロ細胞↑
–PSCのトランスクリプトームに変化はなし→転写後修飾が関与しているかも。