本日も文献紹介です。
Wang C, et al.
Inducing and exploiting vulnerabilities for the treatment of liver cancer.
Nature. 2019 Oct;574(7777):268-272.
Abstract
- 肝臓がんの治療は効果的な薬剤がなく未だ困難である。
- しかし老化細胞治療、中でも特に前老化細胞治療と老化がん細胞を選択的に除去する治療を組み合わせる方法は効果的な治療となるかもしれない。
- キナーゼCDC7のDNA複製を薬理学的に阻害することで、肝臓がんの細胞の中でTP53変異のある細胞のみ選択的に老化させること可能であることが分かった。
- この老化した細胞は抗うつ薬のセルトラリンによるmTOR阻害作用を利用し、除去することができる。
- このCDC7とmTOR阻害の組み合わせで、肝臓がんの劇的な成長阻害をもたらす。
筆者らの提唱するTP53変異肝臓がん細胞への"one-two punch" therapy
- CRISPR-Cas9を用い肝臓がん細胞に老化=senescenceを引き起こさせる遺伝子をスクリーニング
→肝臓がん細胞の中で発現している遺伝子のうち、ノックアウトしても問題ないものを(Essential geneでないもの)を選び、さらに小分子による阻害が可能で、阻害されてもがんでない正常組織に影響が少ないものとして、CDC7をXL413で阻害する方法が選ばれた。
→CDC7阻害が肝臓がん細胞の老化に使えそう! - XL413を投与すると、肝臓がん細胞では、TP53変異肝臓がん細胞は老化マーカーが出現するが、他の細胞ではそのような変化なし。投与をやめても再び細胞周期には入らず。(幹細胞の中でもTP53変異がない細胞は影響なし。)
→CDC7阻害によって肝臓がん細胞のみ老化状態へ。
※肺小細胞がんでも同様の効果が見られた。 - CDC阻害薬を投与すると、TP53変異肝臓がん細胞でのみγH2AXとCNAに重鎖鎖損傷が目立つようになり、p21(CIPI)が活性化する。※DNA修復に関する遺伝子がCDC7阻害によって抑制される。
- 既存の老化細胞除去薬ABT2638の高濃度使用は臨床応用が難しいため、新たな老化細胞除去薬を検索。→セルトラリンを発見。老化細胞でのみアポトーシス誘導が可能。
- しかしそれに必要なセルトラリンのの濃度は非常に高く臨床利用は難しい。→セルトラリンの作用機序を調べたとことろ、セルトラリンによってmTORシグナルが制限され、特定の細胞のアポトーシスが可能となることが分かった。
→セルトラリンの代わりにmTOR阻害薬を使えばどうか?
→mTOR阻害薬を使うと正常細胞にはほぼ影響なくTP53変異を有する肝臓がん細胞のみあぽーとシスが誘導される。 - また、通常、mTORシグナルを阻害するとフィードバックによる再活性化が起きてしまうが、SHP2阻害薬を組み合わせると、これを防げる。
- またmTOR阻害薬による老化細胞アポトーシス誘発は、CDC7阻害によって生じた老化細胞にのみ生じる。他の理由で生じた老化細胞はアポトーシス誘導されない。
- これはIn vivoでも再現可能?→可能!
CDC7阻害時に老化細胞が増え、さらにmTOR阻害薬をそこに投与すると、老化細胞が除去される!腫瘍抑制効果はソラフェニブよりも高い! - 細胞老化と免疫療法を組み合わせることで腫瘍の効果的な治療が可能となるかもしれない。