本日も文献紹介です。
A novel approach to genetic engineering of T-cell subsets by hematopoietic stem cell infection with a bicistronic lentivirus
N. V. Bogert, J. Furkel, S. Din, I. Braren, V. Eckstein, J. A. Müller, L. Uhlmann, H. A. Katus & M. H. Konstandin
Scientific Reports volume 10, Article number: 13740 (2020) Cite this article
Abstract
造血幹細胞(HSC)のレンチウイルスによる修飾は、遺伝性疾患を持つ患者に対するin vivoでの実験と新たな治療アプローチへの道を開いた。この方法の欠点は、ユビキタスプロモーターを使用すると、改変の対象である一部の白血球(例えばT細胞)だけでなく、HSCから産生される全ての種類の白血球が遺伝的に改変されてしまうことである。これを改善するために、我々は、目的の白血球サブタイプのみを遺伝子改変する場イシストロニックレンチウイルスを開発した。この新たに設計されたレンチウイルスは、HSCを選択するためのmCherryを制限するグローバルプロモーター(mPGK)とeGFPの上流にあるT細胞特異的プロモーターを備えている。この2つのプロモーター、distal Lck—(dLck)とCD3δ-promoterを評価した。形質導入されたHSCはmCherry発現の有無によってフローサイトメトリー(FACS)でソートし、致死量以下の放射線照射を受けたC57/BL6マウスに移植し、移植後末梢血にeGFPが発現しているT細胞がどの程度発現しているかを評価した。また、腹膜炎モデルにおいて、炎症部位にレンチウイルスが導入された白血球が動員されるかをテストしたところ、問題なく動員され、機能障害は見られなかったことが確認された。我々が構築したレンチウイルスは、T細胞で実現できたように、白血球の中の固有のサブタイプのみの速やかな遺伝子改変を可能にし、将来的に別のHSCサブセットの改変を機会を得ることを可能にする。
Introduction
・レンチウイルスを用いて造血幹細胞HSCの遺伝子改変を行うという技術は、生体内での炎症反応の調査や、遺伝子改変を用いた疾患治療に利用されている。
・レンチウイルスに感染した細胞を選別するのに、FACSや薬剤耐性を用いた薬理学的選択などといった方法がある。しかしこのときに使用する、ユビキタス活性をもつグローバルプロモーターでは、 改変の対象である一部の白血球(例えばT細胞)だけでなく、HSCから産生される全ての種類の白血球が遺伝的に改変されてしまい、観察され効果が必ずしも目的のサブポピュレーションの改変によるものではない可能性が残ってしまう。
・これを防ぐため、特定に白血球サブセットでのみ遺伝子改変を実現する方法を示す。
※bicistronic(バイシストロニック)発現とは
Methods
2つのレンチウイルスベクターを開発:
①CMV enhancer+distal Lck promotor+EGFP+mPGK promotor+mCherry
②CD34 promotor+EGFP+mPGK promotor+mCherry
紫:グローバルプロモーター(形質導入された全ての細胞でWork)
オレンジ:形質導入された細胞のうちT細胞でのみWork
→①②ともに全細胞でmCherry発現しT細胞でのみEGFP発現する。
実験:
Day0 HSCとり出す
Day1-2 レンチウイルス形質導入
Day7 FACS→mCherry(+)細胞をSorting→mCherry(+)HSCを放射線照射後マウスに移植
移植後24週 チオグリコール酸を介した腹膜炎誘発→3日後にFACS解析
※移植が成功して23週間後にチオグリコール酸を腹腔内に注射することで無菌性腹膜炎を引き起こす。
Result
レンチウイルス形質導入によって、蛍光が導入されること、移植後もこれが見られることを確認したのちに、機能評価を行った。
移植後8-10週間にマウスの末梢血を採取しCD3で染色し、T細胞を同定。
T細胞でmCherryとGFPが発現しているか、他の血球ではどうかを確認した。
→dLckレンチウイルスの場合は、T細胞でのみmCherry&GFPが陽性となり、その他の血球(顆粒球など)ではmCherryが陽性となるのみ!
(CD62LでナイーブT細胞とエフェクターT細胞を分離→mCherry/GFP double positive細胞は前者でも後者でも20%弱程度)
無菌性腹膜炎モデル
移植後24週間後に人為的に無菌性腹膜炎を起こさせ、レンチウイルス感染によって、炎症時の白血球動員のされ方に違いが生じるかを検証。
→生じない。mCherry陽性細胞率もmCherry/GFP souble positive細胞率も、腹膜・末梢血・骨髄で全く変わらず。
Discussion
・レンチウイルスによる遺伝子改変は確立された技術である。レンチウイルスによって形質導入された遺伝子は全ての無図芽細胞に受け継がれるため、「T細胞だけ」といった改変が難しい。
・我々はバイシストロニックな発現が可能なレンチウイルスを開発した。これにより、
①グローバルプロモーター(全ての形質導入された細胞で発現誘発)で形質導入されたHSCを区別することができる。
②細胞特異的なプロモーター(今回の場合はdLck or CD3δ)を入れることによって、特定の細胞(今回の場合はT細胞のみ)に目的の遺伝子を発現させる。
ことが可能となる。
※dLck, CD3δはよく知られたT細胞で有意な活性を持つプロモーター
※CD38δのほうが形質導入率(感染率)は高いが、dLckの方がT細胞特異的。
→実験に応じて適切な方を選択できる。
・炎症時の白血球動員にも影響を与えない。
→炎症性疾患をレンチウイルスにより遺伝子改変を用いて解析するときに役立つ可能性がある。