こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】骨髄内で造血幹細胞は動いている

本日も文献紹介です。

 

Cell Stem Cell
Volume 27, Issue 2, 6 August 2020, Pages 336-345.e4
Intravital Imaging Reveals Motility of Adult Hematopoietic Stem Cells in the Bone Marrow Niche

 Samik Upadhaya et al.

 

HIghlight

・生体マウス内の造血幹細胞(HSC)を長時間観察。

・HSCは骨髄内で複雑な移動をしている可能性がある。

・移動するHSCは欠陥周囲のSCF発現間質細胞と密接に相互作用する。

・CXCR4とインテグリンの運動誘発ブロックはHSCの運動性を急速に停止させる。

 

<基礎知識>

・HSCのその幹細胞性(=自己複製能と多分化能)を有したまま生存するにはニッチの存在が不可欠。

・以前よりその概念は提唱されていたが、実際にそれが示されたのは2005年の論文。

Kiel MJ, et al. SLAM family receptors distinguish hematopoietic stem and progenitor cells and reveal endothelial niches for stem cells. Cell. 2005;121(7):1109-1121.

https://www.cell.com/fulltext/S0092-8674(05)00540-4

・HSCと前駆細胞維持のためには成長因子c-Kitリガンド(幹細胞因子SCFともいわれる)、ケモカインCXCL12などが必要であり、これらは骨髄内の洞様血管周囲にある血管周囲間質細胞に高度に発現している。

・その後、HSCは骨髄内で移動しているのか?いないのか?といったことが議論されてきた。

Should I Stay or Should I Flow: HSCs Are on the Move!

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1934590920303520

・それまではHSCは骨髄内で移動しないのではないか、との意見が優勢。

Christodoulou C, Spencer JA, Yeh SA, et al. Live-animal imaging of native haematopoietic stem and progenitor cells. Nature. 2020;578(7794):278-283. 

https://www.nature.com/articles/s41586-020-1971-z

【論文要旨】生体マウスの頭蓋骨骨髄を観察し、HSC動態を調査。→LT-HSCは洞様血管と骨内膜両方の近くに存在。対照的に多能性前駆細胞(MPP)は骨内膜から距離との距離の変動が大きく移行態血管と関連している可能性が高い。そしておのおのの位置からあまり動かない。

 

<今回の研究では>

これまでは骨髄内でHSCはstatic and sessile=静的で固着的と考えられてきた。しかし、レーザー顕微鏡を用い、生きたマウス骨髄内の標識されたHSCを筆者らは観察することでHSCの多くは、運動性を示すことがわかった。HSCは血管周囲空間に移動し、SCFを発現する血管周囲間質細胞と密接に関与。

 

Result

・タモキシフェン注射によってマウス生体内のHSCが赤色に標識されるようなシステムを開発。→生体内HSCの1/3程度が赤色に。

 

 

 

 

タモキシフェン注射→頚骨生検

→生きたままのマウスの頸骨を露出しマイクロドリルで骨を削り薄くした頸骨をレーザー顕微鏡で観察

(過去の研究では頭蓋骨での観察であったがよりHSCが豊富に含まれている頸骨で観察)

 

 

 

 

 

↑HSCが動いている様子が確認された。

・マクロファージはあまり移動がないにもかかわらず、HSCは移動が確認できる。

・頸骨でも髄骸骨でも観察を行ったがほぼ同様の結果。

・HSCを赤、血管内非細胞を緑に染色し同じ実験を実施。HSCが血管内皮細胞と瀬sh即する様子が確認できた。→血管内皮細胞と相互作用がある。

・次にCXCR4とα4β1をブロックする低分子化合物AMD3100 + BOPを投与した後にHSCの動向を観察。→HSC運動性低下。

 

Discussion

・これまでの報告と異なり、HSCの運動性が確認できた。一部では運動性のない静的なHSCも存在しており、観察時間や観察システムが不十分な場合は、この運動性が確認できない可能性がある。

・頸骨でも頭蓋骨でもほぼ同様の運動性が確認できた。

・HSCの運動性によって複数のニッチ構成要素と動的な相互作用を可能にする。

・この運動性にCXCR4が関与している可能性がある。

・HSC運動性が周囲の細胞との相互作用を可能にし、これがSCFやインテグリンリガンドなどのHSC維持に必要な局所シグナル伝達に必要である可能性がある。