造血幹細胞が生存するにはニッチと呼ばれる微小環境が重要と考えられており、これを体外で再現することが難しいため、造血幹細胞の体外増殖は長らく(30年ほど)困難でした。
しかし近年では研究も進み、体外増殖も実現可能なものとなりつつあります。ブログでもいくつか紹介してきました。
★液体のりの主成分であるポリビニルアルコールをを用いた造血幹細胞培養系
【文献紹介】PVA(ポリビニルアルコール)を用いた造血幹細胞体外増殖 - こりんの基礎医学研究日記
★3D培地ZTGを用いた造血幹細胞培養系
3D培地ZTGを用いたex vivoでの造血前駆細胞培養【文献紹介】 - こりんの基礎医学研究日記
今回はそれに関連した内容です。
造血幹細胞培養のみに限らないことですが、生物系の実験・論文は1つの研究室で得られた知見・結果を他の研究室で再現しようとしても困難ということがしばしばあります。この再現性の低さに注目した論文はあまり多くはないように思いますが、以下の文献はその原因について1つのアイディアを提案しています。
Ieyasu A, Ishida R, Kimura T, et al.
An All-Recombinant Protein-Based Culture System Specifically Identifies Hematopoietic Stem Cell Maintenance Factors. Stem Cell Reports.
2017;8(3):500-508.
・造血幹細胞培養実験における再現性の低さは、多くの実験室で使用されているにも関わらず、多数ある構成物質が十分に同定されていないウシ血清アルブミン(Bovine Serum Albumin Fraction-V; BSA-FV)の固体差(製造ロットの違い)が原因ではないか?
・異なる15種類の製造ロットのBSA-FVを用いてコロニーアッセイを実施。5種類でコロニー形成能低下が見られ、コロニー形成が見られ10種類のロットで培養した造血幹細胞を用いて移植を行うと生着率に大きな差が見られる。
・血清アルブミン以外に含まれている多くの微量タンパク質がこの違いに影響している可能性がある。
・BSA-FVの代わりに非動物性組み換えアルブミンタンパク質(Recombinant serum albumin; RSA)を用いた培養系を作成→生着率の良いBSA-FVと同等の移植成績が得られた。
・また、他より骨髄再構築能が高かったBSA-FVを分析したところ、特異的なタンパク質としてヘモペキシン(Hemopexin; HPX)が見つかった。
・BSA-FVの中でも製造ロットの違いによってHPXが含まれているものといないものがあった→含まれているものを移植に用いるとコントロールより生着率が高かった。
・HPXは背板内では肝臓・肺・神経系で発現。一方神経系細胞であるシュワン細胞は骨髄ニッチの一種。神経細胞にHPXが発現しているのでは?
→調査したところ神経細胞とHPXは近接して存在
→骨髄ニッチとして造血幹細胞の未分化性維持に関与しているかもしれない。
今回は以上です。