こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

造血幹細胞についての基礎知識

造血幹細胞に関して周りからよく聞かれる質問について、自分の知識の整理も踏まえて答えていきます。(一般の方向けを想定)

 

 

★造血幹細胞はどんな細胞?

「多分化能」と「自己複製能」を持ち(この2つがあることが「幹細胞」の条件)、白血球、赤血球、血小板など様々な血液細胞になることができる。白血球などがたくさんあるのに対して造血幹細胞は体内にごく少量しかなく、病気や治療など白血球や赤血球が減少すると、それを補うために増殖する(造血幹細胞から白血球や赤血球に分化する)。

 

★iPS細胞とはどう違う?,

iPS細胞もやはり「多分化能」と「自己複製能」を持つが、iPS細胞がどんな細胞にも慣れるのに対して(神経の細胞にも肝臓の細胞にも心臓の細胞にもなれる)、造血幹細胞は血液細胞にしかなることができず、造血幹細胞が例えば神経や肝臓になることはできない。

 

★造血幹細胞はなぜ重要?

「多分化能」と「自己複製能」を利用して血液疾患の治療に使われる。例えば白血病の治療のための造血幹細胞移植について次の項で考える。

 

★造血幹細胞移植の概要

白血病=血液細胞をつくる骨髄がうまく機能しなくなり、本来の体外からの侵入者を倒すという機能を持たないダメな白血球が多量に増えてしまう(腫瘍細胞)。ダメな白血球で骨髄や血液はいっぱいになってしまい、赤血球や血小板など他の血液細胞もうまく作れなくなる。(※骨髄の中に造血幹細胞がいる)

 

抗がん剤を使えばこのダメな白血球を倒すことができるが、抗がん剤は靭帯にダメージがあるため、あまり多量に使うことができず、抗がん剤だけで腫瘍細胞ゼロにすることはできない。ここで造血幹細胞移植を利用する。

 

まず大量の抗がん剤放射線照射などで腫瘍細胞を減少させるが、これによって正常の血液細胞もダメージを受け作れなくなってしまうので、ここで健康なヒト(あるいは臍帯血など)の造血幹細胞を移植し、その新しい細胞に正しい白血球や赤血球を作ってもらう。

 

移植された新しい白血球が、患者の体に残った腫瘍細胞を攻撃するという移植片対白血病効果(GVL効果)も期待できる。(この効果が得られるのは造血幹細胞移植の中でも同種造血幹細胞移植のみ)

 

「移植」というと、手術で悪い臓器を切除し、新しい臓器をいれるといったようなことを想起する人がいますが(腎臓移植や肝臓移植はそうです)、造血幹細胞移植の場合は、抗がん剤放射線照射が「切除」に相当し、ドナーからもらった造血幹細胞を入れる(輸血や点滴のように血管に針を刺して入れる)のが「新しい臓器を入れる」ことに相当します。

 

★iPS細胞から造血幹細胞を作れないの?

作れます。マウスでは既に移植も成功しています。

参考サイト

www.jst.go.jp

 

上記ページにも書かれていますが、安全性の面でまだ検証が必要そうです。

 

また、iPS細胞から誘導したものであってもなくても、造血幹細胞を体内から取り出し分化させないまま保持する(分化すると多能性・自己複製能がなくなり幹細胞ではなくなってしまう)、増殖するということが難しく、白血病患者出た時に自由に造血幹細胞を増やして移植するということは困難であるため、やはり今後の研究がまだ必要である。

 

★造血幹細胞の培養や増殖はなぜ難しい?

生体内で造血幹細胞が未分化なまま生存でき、白血球や赤血球が減少してしまったときに分化・増殖して補うことができるのは、骨髄微小環境=ニッチの役割が大きいとされており、これを体外で再現することが難しいから。つまり適切な環境にいないと分化して造血幹細胞でなくなってしまうという訳です。

 

上記理由で造血幹細胞の体外増殖は長らく困難でしたが、近年実現例も出てきました。

 

★液体のりの主成分であるポリビニルアルコールをを用いた造血幹細胞培養系

【文献紹介】PVA(ポリビニルアルコール)を用いた造血幹細胞体外増殖 - こりんの基礎医学研究日記

★3D培地ZTGを用いた造血幹細胞培養系

3D培地ZTGを用いたex vivoでの造血前駆細胞培養【文献紹介】 - こりんの基礎医学研究日記

 

上記はいずれも2019年と近年発表されたものです。今後のさらなる研究が期待されます。

 

~追記~ 以下の記事もよろしければどうぞ

teicoplanin.hatenablog.com