こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

3D培地ZTGを用いたex vivoでの造血前駆細胞培養【文献紹介】

前回の投稿からまた少し間隔が空いてしまいましたが(抄読会やら学会発表準備やらあり)、再び文献紹介です。

 

今月7日にPublishされたばかりの論文です。抄読会で扱いしましたので、抄読会で使用下スライドなども使用しながら解説していきます。

今までは和訳中心でしたが、読みながら勉強したことなども少し盛り込みます。

 

 

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Published: 07 October 2019
Expansion of primitive human hematopoietic stem cells by culture in a zwitterionic hydrogel
Tao Bai et al. Nature Medicine volume 25, pages1566–1575 (2019)

【Background】

HLAタイプを一致させなければいけない骨髄移植と異なり、臍帯血移植はほぼすべての患者に移植可能かつGVHDリスクも再発率も低いにもかかわらず、その利用は限定的である→これは利用できる幹細胞量が非常に少ないことが原因である。

 

今回の論文のLast authorであるColleen Delaney氏は、長年造血幹細胞HSCや造血前駆細胞HSPCの培養の研究を行っており、HSPC培養に関してもいくつかの先行論文あり。

→Notchレセプターのリガンドの1つであるDelta1(これにはT細胞分化を制限する作用あり)を培地に用い、ヒト臍帯血のHSPCを培養するというシステムを考案。

→これにより従来の100倍の増殖が可能で再増殖能もアップ。

しかし、これも成人由来骨髄HSPCの培養に使えず…まぜならばHSPCのex vivoでの分化を防ぐことができないためである。

 

→ここで今回筆者らが注目したので3D培地である。

 

3D培地とは??

通常、細胞の培養に用いられるプレートを用いた培養法は2D培養で、細胞は単層(平面)で増殖していく。→これは生体内とは程遠い環境(そのためex vivoでできたことをそのまま生体内で実現させることは難しい)。

 

これに対し3D培養は、今回のようなゲルなどを用いて、3次元的に細胞が増殖できるようにしたもので、より生体内に近い環境となっている。

 

2D培地は疎水性であり、疎水性環境下では細胞を分化させてしまう活性酸素が多く発生するため、親水性である3D培地双生イオンヒドロゲルを用いれば、活性酸素産生量が抑えられ、HSPCを分化させないまま増殖することができるのでは??

→ということで筆者らは今回の実験を敢行。

 

 

f:id:teicoplanin:20191030141435g:plain

https://www.sigmaaldrich.com/technical-documents/articles/biology/3d-hydrogels.html

より引用した図にさらに手を加えた図↑

 

2D培養と3D培養の比較については、以下のサイトもわかりやすい↓

m-hub.jp

 

ZTG培地とは?

今回紹介されているZwitterionic poly(carboxybetaine)-based hydrogels (ZTG)の大きな特徴は、メタロプロテイナーゼによって架橋構造が切れるという点。

 

f:id:teicoplanin:20191030143825g:plain

 

↑bの青で示されている架橋構造が、周囲のメタロプテイナーゼ(HSPCから少量分泌される)濃度が上昇すると切断される。

→切断されると培地が広がり、拡張する。

 

これを用いて筆者らはHSPC培養に挑戦。

 

(ちなみに抄読会で取り上げた際に、この培地が欲しい!という意見が多々ありましたが、販売していません。論文には培地作成の方法も記載されていますが、化学の知識がないと理解は少し難しいかも…)

 

ZTG培地の能力とは?

結論的には、ZTGは非常に優れたHSPC培養能を示したとのこと。

・従来の方法の1000倍、筆者らが先行論文で紹介したDIX培地の100倍程度ものHSPC増殖率。

・24日間の培養で94%の細胞差依存率で、約うち94%がCD34+細胞(つまり未分化細胞)

・移植後生着率も高い(short-termでもlong-termでも変わらず高い生着率)。

・Long-term HSC頻度は、マウスにfresh細胞移植した際(24-30週)では880細胞に1つなのに対し、ZTGで培養したのちに移植した場合は12細胞に1つ→約73倍!!

・Fresh細胞10,000個移植した場合とZTGで300個の細胞を培養して移植した場合で生着率ほぼ同等→元の細胞が少なくても高い生着率を維持!!

・また移植後の分化能も変わらず。

・2次移植でも同様の効果を確認。

・成人HSPCを用いても臍帯血と同世の結果。

・ZTG培養では活性酸素の産生量が有意に少ない(→このため、分化が制限されるのと思われる)。

・自己複製を阻害するp16INK4a、phospho-p38 MAPK、mTORのレベルがControlやDXI培地と比較し有意に低い。

グルコース消費やラクテート産生も有意にZTG培地では低い。

ポリペプチド合成に必要な20種類のアミノ酸クロマトグラフィーにより分析→biosynthesisに必要なアミノ酸がZTGではdownregulateされている。

 

文献内容は以上です。文献にはこのシステムの弱点やネガティブな側面についてはあまり触れられていませんでした。弱点はないのでしょうか…従来の方法と比較してその増殖効率は驚くほど高く、実現できれば臨床的にはかなり有効な手段になりそうです。