こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】Jak2欠損はHSCの機能低下や骨髄不全につながる~その3~

前回の文献紹介の続きです。

 

******シリーズの全て******

その1

今回は最後!DiscussionとConclusionです。

 

 

 
 
Translational and Clinical Research  
  
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Critical Role of Jak2 in the Maintenance and Function of Adult Hematopoietic Stem Cells

 

Discussion

・Jak2は様々な細胞や組織で研究されているが、HSC機能への関与に関してはあまりデータがなかった。

・以前の研究では…生殖細胞においてJak2をけ損させると胎児肝臓における赤血球造血が障害を受け胚致死にいたると報告されている。(Park et al.)→今回は成体マウスにおけるJak2の役割に関する研究。

・成体マウスではJak2欠損によって骨髄不全がおき、100%のマウスが死亡!(前述のParkらの報告では20%が死亡→これは完全欠損ではなかった)

・Jak2欠損は移植後造血再構築能に大きな影響与える。Controlの10倍の細胞数移植しても移植後造血できない。競合BMTでも競合できず。→Jak2欠損によってHSCの本質的な機能が失われてしまった。

・多くのHSCは、その消耗と枯渇を防ぐためG0期=静止期にある。

 →これがJak2を欠損させると細胞周期に入る。

 →アポトーシス増加しHSCが急速に失われる。

・Jak2欠損は活性酸素増加につながり、これがHSC静止期喪失につながっている。

・Jak2欠損により、p38 MAPK活性化が誘導される。

・NAC処理をするとJak2欠損の効果を打ち消せる(Jak2欠損HSCの造血再構築能を改善させる)

・Jak2欠損によって、HSC維持に必要とされるサイトカインであるTPOやSCFが関与したシグナル伝達が阻害される。

・遺伝子解析によりJak / Stat、TPO、MAPK、PI3キナーゼ、mTORシグナル伝達経路に関連する遺伝子が阻害されることが分かった。→これが活性酸素増加やHSC静止期解除につながっている。

・Jak2がどのような経路を介してこれらの遺伝子をダウンレギュレートしているかは今後さらなる研究が必要である。

 

Conclusion

・Jak2は成人HSCの維持と正常機能に重要な役割を果たしている。

・現在利用されているJac2阻害薬は変異型Jak2と野生型Jak2を区別できず、このどちらも阻害するために造血毒性が生じてしまう。

・これを防ぐためには、変異型Jak2(またはMPN)の誘導に必要なJak2V617Fの下流経路の特定のターゲティングが必要である。

→JAK2V617F変異を有する患者の治療における造血毒性を最小限に抑えることができるかもしれない。

 

以上で終了です。