こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】Periostin/Integrin-αv Axisによる胎児肝における造血幹細胞プールサイズ調節〜その3〜

前回記事はこちら↓

【文献紹介】Periostin/Integrin-αv Axisによる胎児肝に置ける造血幹細胞プールサイズ調節〜その1〜 - こりんの基礎医学研究日記

【文献紹介】Periostin/Integrin-αv Axisによる胎児肝における造血幹細胞プールサイズ調節〜その2〜 - こりんの基礎医学研究日記

 

Biswas A, Roy IM, Babu PC, et al.

The Periostin/Integrin-αv Axis Regulates the Size of Hematopoietic Stem Cell Pool in the Fetal Liver. 

Stem Cell Reports. 2020;S2213-6711(20)30243-5.

 

 <基礎知識> 参考:Wikipedia

★インテグリンとは?

細胞表面にあるたんぱく質であり、細胞接着分子である。α鎖とβ鎖の2つのサブユニットから成っている。αとβには様々な種類があり、この2つ組み合わせによって様々なインテグリンが存在する。αとβの種類によってインテグリンα1β1などと表記される。ヒトには24種類のインテグリンがある。

 

★インテグリンαVβ3(ビトロネクチンレセプター)

インテグリンの中でもRGD配列認識インテグリンに分類される(結合するリガンドによって、このほかにもラミニン結合インテグリン、コラーゲン結合インテグリンなどが存在している)。血管内皮細胞、破骨細胞、腫瘍細胞に多く発現している。血管新生などに関与している可能性があると考えられている。

細胞接着因子であるインテグリン αvβ3 は、がんの増殖、血管新生や浸潤に関与すると考えられており、そのリガンドである RGD 配列を持つペプチドは、がんの治療薬や診断薬として有効であると期待されている。

例えば、RGD 配列を持つシレンジタイドは、インテグリン分子に対する分子標的薬であり、悪性グリオーマに対して有効に働くことが大
きく期待されている。

出典:「がん診断・治療薬の開発を目的としたインテグリン αvβ3に対する
新規リガンドの合成 」

http://www.med.ufukui.ac.jp/LIFE/seimei/research/H25_seikahoukokusyo/makino.pdf

※インテグリンαVβ3の遺伝子…ITGAVとITGB3

 

ペリオスチン(Postn)

インテグリン αvとの相互作用を通じてぺリオスチンがHSC増殖調節を担っている。

 

Discussion

・過去の文献で、POSTNとITGAV相互作用が成人骨髄におけるHSC休止期を促進することが示された。

→今回はPostnノックアウトが胎児肝においてHSC増殖を促進するという結果を示している。

・これまでの研究によると胎児肝から得られたHSCは移植後再増殖能が高い。

・われわれの研究から、胎児肝において休止期にあるHSCは成人と比べて非常に少ないことが分かった。→これがPostnノックアウトによってさらに増加。移植後のキメリズムも高い。

・胎児肝においてPOSTN-ITGAV相互作用が無くなるとHSCが増殖する。

・また、胎児肝においてDNA修復経路であるDDR経路の遺伝子レベルが増加していることが分かった。HSCにおけるDNA損傷蓄積はAgingに伴う機能低下と関連している。→つまり胎児肝のHSCは機能が高い?

・今回の研究結果から、HSC増殖の程度は、使用するHSCの発達段階によって違いを受けると考えられる。成人HSCよりも胎児肝HSCを使ってEx vivo培養する方がDNA損傷修復能力が優れており、HSCの機能もより優れている可能性がある。

・Postn欠損胚においてはさらに修復速度があがり、幹細胞の特徴を保持したままHSC増殖が可能。

・胎児肝HSCはミトコンドリア活性が高いため、活性酸素レベルが上昇することが以前に報告されている。しかし、胎児肝HSCは成人と比べてこの活性酸素に対する耐性が強い。DNA修復能の高さもこれに関連している。

(DNA損傷修復能力が高い≒活性酸素に強い)

・発達段階に関係なく、POSTN-ITGAV軸はHScの細胞周期調節に関して重要な役割を担っている。

血栓塞栓性イベントを予防するために臨床的に使用されているビタミンK拮抗薬ワルファリンの効果の仲介にPOSTN-ITGAV軸が関与していると近年の報告あり。

 

まとめ

・発達段階に応じてPOSTN-ITGAV軸はHSC増殖(細胞周期調節)に関与している。

・HSCニッチにおけるPOSTN喪失はHSC増殖を誘発するが、成人骨髄においてこれは機能低下につながる。

・Postnノックアウト胎児肝ではHSCプールの増殖が見られる。

・胎児HSCはDNA損傷修復能が上がるため、増殖誘発ストレスに強い可能性がある。