こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】骨髄由来成長因子MYDFGは血管内非障害や動脈硬化を軽減させる効果がある

本日も文献紹介ですが、軽めに行きます。

 

RESEARCH ARTICLEHEALTH AND MEDICINE
Myeloid-derived growth factor inhibits inflammation and alleviates endothelial injury and atherosclerosis in mice

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Science Advances  21 May 2021:
Vol. 7, no. 21, eabe6903
DOI: 10.1126/sciadv.abe6903
 
  • 骨髄由来成長因子MYDFGが欠乏すると血管炎症や血管内皮障害、in vivoでのアテローム動脈硬化を招くことを筆者らは突き止めた。
  • MYDFGが回復すると炎症や白血球ホーミングが軽減、血管内皮障害や動脈硬化も軽減。
  • MYDGF は、in vitro でパルミチン酸によって誘発される内皮障害、アポトーシス、透過性などを軽減する効果はある。
  • 白血球のホーミングを制御し、MAP4K4/NF-κB シグナル伝達などを介して、内皮障害とアテローム動脈硬化の進行を回避し、骨髄と動脈間のクロストーク因子として動脈の病態生理学を調節する。
  • 骨髄は内分泌機関として機能し、代謝障害の治療標的となる可能性がある。
 

 

 

【文献紹介】好酸球増多によるCCL6分泌ががん転移を促進する

本日も文献紹介ですが軽めに行きます。

 

RESEARCH ARTICLEIMMUNOLOGY
Eosinophilic inflammation promotes CCL6-dependent metastatic tumor growth

 See all authors and affiliations

Science Advances  26 May 2021:
Vol. 7, no. 22, eabb5943
DOI: 10.1126/sciadv.abb5943
 
  • 炎症が発がんの原因となることが示唆されているが、炎症との関連が深い好酸球とがん転移との関係はこれまで明らかにされてこなかった。
  • 筆者らはマウスにおいて、好酸球増多を伴う気道炎症、好酸球腸炎の両方でがん転移が増えることを突き止めた。
  • 交差急増多は、骨転移増加に関与している。
  • 胸膜転移のあるがん患者の胸水中には好酸球増多がみられる。
  • 好酸球はCCL6を分泌することにより腫瘍細胞の郵送と転移形成を促進する働きがある。
  • CCL6の受容体であるCCR1をブロックすることで転移を防ぐことができるかもしれない。

 

 

 

【文献紹介】HSC再構築能に関するHectD1の役割

今回は簡単な紹介です。例によって背景説明などの前置きが長くなります。

 

Lv K, et al.

HectD1 controls hematopoietic stem cell regeneration by coordinating ribosome assembly and protein synthesis.

Cell Stem Cell. 2021 Mar 4:S1934-5909(21)00058-8.

 

HectD1とは?

HECTD1はE3ユビキチンリガーゼで、神経管閉鎖と間充織の正常な発生に必要とされています。

出典: Cell Signaling ユビキチンリガーゼ表

 

ユビキチンリガーゼ (ubiquitin ligase) またはE3ユビキチンリガーゼは、ユビキチンが結合したE2ユビキチン結合酵素を呼び寄せ、タンパク質基質を認識し、E2から基質へのユビキチンの転移を助ける、もしくは直接的に触媒するタンパク質である。

出典:Wikipedia

ユビキチンとは何かを簡単に説明しておきます。

タンパク質必要なときに合成され、いらなくなったら分解されるというのを繰り返しています。(アミノ酸からタンパク質は作られ、またアミノ酸に戻ります。)

いらなくなったというサインを出すのがユビキチン化です。いらくなくなったタンパク質にはユビキチンが付加され、それを目印にタンパク質はプロテアソームで分解されます。

出典:Ayumi Media -生き抜く子供を育てたい-

上図は高校生向けの生物解説ページのようですが、わかりやすいので図をお借りしました。

 

で、今回の論文は、そのユビキチンリガーゼの1つであるHectD1の造血幹細胞(HSC)機能に関する役割を明らかにすることを目的としています。

 

  • HectD1ノックアウトによって、HSCの移植後生着やex vivo培養増殖が損なわれる。
  • HECTD1はストレス条件化で造血幹細胞・前駆細胞タンパク質の合成と増殖を調節する。
  • HectD1によるユビキチン化を通して、リボソーム60Sサブユニットの集合因子であるZNF622を分解する。つまりHectD1は以下のような機能を示すと考えられる。
    Hectd1がZNF622をユビキチン化
    ZNF622が分解される
    リボソーム60sサブユニットと40sサブユニット
     が合わさり80sサブユニットとなる
    タンパク質合成
    HSC再構築
  • HectD1欠損HSCでは上記機構が障害され、HSC再構築が起きないが、HectD1欠損HSCでもZNF622を欠損させればHSC再構築能は復活する。

 

【文献紹介】アデノシンデアミナーゼ欠損症に対する遺伝子治療

先天性疾患に対する遺伝子治療に関してはこれまでも何度か紹介してきました。今回はそれを利用した臨床試験がNEJMで紹介されていたので取り上げてみます。

 

取り扱う疾患はアデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症による重症複合免疫不全症(ADA-SCID)です。

 

ADAという酵素が生まれつき障害されてしまうことによってできるdATPというよくない物質が、胸腺におけるリンパ球産生を阻害するという疾患です。

うまく機能するリンパ球が産生できなくなってしまうことによって免疫不全となります。国立成育医療センターのホームページを見てみると3つの治療法があります。

 

  1. 感染症治療
    これは対症療法に近いです。免疫不全状態にあるので感染症にかかりやすいため、かかったら治療したり、かからないように予防薬を飲んだりします。
  2. 造血幹細胞移植
    正常なリンパ球を作ってくれる造血幹細胞を他の人からもらって移植する方法です。他人からもらうので(家族の場合もあります)、拒絶反応が問題となります。
  3. 酵素補充療法
    ADAという酵素が足りてないことによっておこる疾患なので、ウシ由来のADAを投与し不足を補うという治療です。日本では未承認の薬です。一生補充し続けなければなりません。

対して、遺伝子治療の手順は以下の通りです。

患者本人のCD34陽性造血幹・前駆細胞(HSPC)を取り出す

遺伝子異常がある患者の造血幹細胞をベクターを用いて治療

※今回の例で言えば、患者の造血幹細胞はADA遺伝子が欠損しているため、ウイルスベクターを用いてADA遺伝子を造血幹細胞に入れ込む

本人に処置後のHSPCを戻す(自家移植)

 

既存の治療の造血幹細胞移植と似ていますが、異なる点は、既存の移植は他人の造血幹細胞を移植しているのに対し、遺伝子治療の場合は、自分の造血幹細胞を移植しています。

 

自分の造血幹細胞なので、他人の造血幹細胞をもらうときに大きな問題となる移植片対宿主病(GVHD: Graft-Versus-Host Disease)が起きません。

 

そして遺伝子治療によって正常になった自分の造血幹細胞がADAを分泌してくれるため、酵素を補充する必要がなくなります。

 

これはすでに過去にも臨床試験で成果を出しています。

 

www.nejm.jp

 

↑これは2009年に発表されたものです。このときはADA欠損症の免疫不全の患児10例に移植をしました。その結果は以下の通りです。

 

 8 例は酵素補充療法を必要とせず,血液細胞の ADA の発現が持続し,プリン代謝物の解毒障害の徴候はみられなかった.9 例では免疫の再構築が認められ,T 細胞数の増加(T 細胞数の 3 年後の中央値 1.07×109/L)と T 細胞機能の正常化がみられた.

(中略)ADA 欠損症患児の SCID に対して,強度の低い前処置を併用する遺伝子治療は安全かつ有効な治療法である.(ClinicalTrials.gov 番号:NCT00598481,NCT00599781)

 

10年以上前の臨床試験ですでにある程度の成果を上げています。今回はこちらです。

www.nejm.jp

 

今回は患者50例(米国30例、英国20例)と大きく数が増えました。その結果は以下の通りです。

 

全生存率はすべての試験で,最長 24 ヵ月および 36 ヵ月まで 100%であった.無イベント生存率酵素補充療法の再開または救済同種造血幹細胞移植の実施がない)は,12 ヵ月の時点で 97%(米国の 2 試験)と 100%(英国の試験),24 ヵ月の時点でそれぞれ 97%と 95%,36 ヵ月の時点で 95%(英国の試験)であった.

(中略)ADA-SCID をレンチウイルスによる ex vivo HSPC 遺伝子治療で治療した結果,全生存率と無イベント生存率は高く,ADA の発現,代謝の正常化,免疫能の再構築が維持された.

 

 

これだけ見ますとかなりいい結果のように思えます。もちろん治療効果をもっときちんと評価するにはRCTになるわけですが、将来性はかなりあるように思えます。さらなる研究の発展に期待したいと思います。

CRISPR offシステム

ノーベル賞を受賞した遺伝子編集技術CRISPR/Cas9と異なるアプローチで遺伝子発現を調節するCRISPR offシステムについて、抄読会で扱いましたので紹介します。タイトルは「CRISPR offシステム」としていますが、自分の勉強のため、背景などの説明が主になります。実際に発表された論文の内容はだいぶ後半です。

 

まず、CRISPR/Cas9やその他のゲノム編集技術について説明していきます。

過去のゲノム編集は効率が非常に悪く、狙った編集が成功する確率がとても低い状態でした。1990年代~2000年代にかけてZFN、TALENなどの技術が開発されました。これに加え、2012年にCRISPR/Cas9システムが発表されてから、ゲノム編集は大きく発展した。

 

CRISPR/Cas9の原理については以下の通り↓

もともとは細菌や古細菌の防御システムでした。

例えば大腸菌とかの中ウイルスが入ってきて、そのウイルスは自分のDNAを大腸菌の中に組み込もうとします。そうすると大腸菌がこのCRISPR-Cas9システム使って自分のものではないDNAを切り取るのです。(適応免疫防御機構)

CRISPR-Cas9システムは、

①ガイドRNA

②Cas9タンパク質(エンドヌクレアーゼ) 

③PAM配列

の3つの要素で構成されています。

菌(ヒトでも動物でもなんでも可)のDNAの中の、「ガイドRNAと相補的な配列」でありなおかつ「PAM配列のすぐ上流に位置する配列」という2つを満たす場所(配列)にガイドRNAがCas9を連れて行き、Cas9がそこに到着すると問題のDNAをカットします。

カットされた後は、細胞の修復機構によって修復され、この修復の際に、カットされた部分に別の遺伝子を入れることもできます。

CRISPR-Cas9以前にもゲノム編集はありましたが、CRISPR-Cas9は時間やお金がこれまでの方法よりかからず、簡単にできるという点が優れていました。

出典:

CRISPR-Cas9システムとゲノム編集 - こりんの基礎医学研究日記

 

ZFN: Zinc-Finger Nuclease

TALEN: Transcription Activator-Like Effector Nuclease

f:id:teicoplanin:20210521122614p:plain出典:Wikipedia

上図を見るとわかるように、それまでの方法のZFNやTALENと比べるとメリットが多いことが分かる。この中でも特に、操作が簡便でかかる時間と労力が大きく減少したという点が大きい。TALENなどは技術が特殊なので、やっている施設や機関に編集を依頼して何週間もかかるような状況だったが、CRSPERは簡単な操作でできるので、どこの研究室でも短時間で可能になりました。それに伴い費用も大きく抑えられました。

 

しかしデメリットもあります。まずTALENなどほかの方法と比較すると特異性が低くオフターゲット変異が多いという特徴があります。つまり目的以外の遺伝子にも改変が起きてしまうということです。

 

CRISPRでは意図的にDNAの二重螺旋を切断することから、細胞の予期しない免疫反応を引き起こしたりターゲット遺伝子以外の遺伝子を変更してしまったりするオフターゲットと呼ばれる現象が稀に引き起こされる。特にゲノム編集技術を人間の治療に適用しようとする場合には、オフターゲットを引き起こさないことが必須条件となる。 

出典:「CRISPRフリーのゲノム編集時代の幕開け―ゲノム編集技術の展開―」

三井物産戦略研究所 技術フォーサイトセンター 兼 技術・イノベーション情報部インダストリーイノベーション室 阿部 裕

 

そしてこのCRISPR/Cas9システムの対抗馬として現れたのが今回紹介する文献です。

その名もCRISPR offです。長い文献なのでかいつまんでいきます。

 

Nuñez JK, et al.

Genome-wide programmable transcriptional memory by CRISPR-based epigenome editing.

Cell. 2021 Apr 29;184(9):2503-2519.e17.

 

ここでまだ背景説明が続きます。DNAメチル化についてです。

 DNAメチル化(ディーエヌエイメチルか)とは、DNA中の塩基の炭素原子にメチル基修飾が付加される化学反応である。

出典:Wikipedia

このメチル化がなんなのかというと、ざっくり言いますと

DNA上にある遺伝子の発現を制御する領域(プロモーター)が

メチル化される→遺伝子発現がOff

 …これを担っているのはDNAメチル化酵素DNMT3AとDNMT3B

脱メチル化される→遺伝子発現がOn

 ....これを担っているのはTet1,2,3などのTetファミリー

DNAメチル化は通常CpG英語版ヌクレオチド部位(シトシン-ホスホジエステル結合-グアニン)で起こる。

(中略)ほ乳類で全てのCpG部位の60-90%はメチル化されている

出典:Wikipedia

→つまりCRISPR/Cas9システムで遺伝子を書き換えなくてもメチル化を調節することで遺伝子発現をコントロールすることができる(これによってCRISPRに対抗する)という内容です。  

 

彼らのチームは、DNA鎖の特定の場所をメチル化できるCas9融合たんぱく質を開発しました。これによってメチル化された遺伝子はOffになり、このメチル化は非常に特異的です。

 

CRISPR/Cas9システムの弱点であった特異性の低さ(オフターゲット変異が起きてしまう)を解決していることになります。

 

また、Offにするだけでなく単一ガイドRNAとMS2コートタンパク質で構成されるCRISPR Onシステムにより、脱メチル化を起こさせ、目的遺伝子の発現をOnにすることもできます。

 

また他の優れた点としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 数百回細胞が分裂してもこのたんぱく質の機能は保持される
    細胞分裂しても遺伝子発現のOn/Offは受け継がれる。
  • CpGアイランドを含まないほとんどの遺伝子で利用可能。
  • iPS細胞にメチル化/脱メチル化を施した場合、分化してもこの機能は保持される。

最後の実験は、このCRISPR Off/Onシステムの実用性を検証するために追加されました。筆者らはCRISPR Offシステムを利用し、iPS細胞の特定の遺伝子をサイレンシングし、その後ニューロンへと誘導させました。ニューロン誘導後も90%の遺伝子はサイレンシングを保持しており、細胞型が変更してもなおCRISPR Offによる変更を保持しているというこが分かりました。

 

CRISPR/Cas9システムが2020年にノーベル賞を受賞したばかりですが、また新しい技術が出てきました。個人的には遺伝子を書き換える必要がない(遺伝子を傷つけない)という点だこちらの方法は優れているように思います。またCRISPRベースの新しい技術がどんどん出てくるかもしれませんが置いてかれないようにしなければなりません。

【文献紹介】重症先天性好中球減少症の遺伝子編集による治療

CRISPR関連の文献を紹介してみます。先天性好中球減少症を遺伝子編集にて治療するというものです。

 

CLINICAL AND TRANSLATIONAL REPORT| VOLUME 28, ISSUE 5P833-845.E5, MAY 06, 2021
 

Dissecting ELANE neutropenia pathogenicity by human HSC gene editing

Published:January 28, 2021

 

重症先天性好中球減少症(SCN)とは

末梢血好中球絶対数が500/ml未満(多くは200/ml未満)の慢性好中球減少,骨髄像での前骨髄球と骨髄球の段階での成熟障害,重症反復性細菌感染症を臨床的特徴とする。G-CSF投与で好中球減少と臨床症状は改善するが,一部の症例では骨髄異形成症候群(MDS)および急性骨髄性白血病(AML)に進展することが知られている。

(中略)

本疾患は種々の遺伝子変異によって重症慢性好中球減少が認められる疾患群である。現在までに好中球エラスターゼ遺伝子(ELANE),HAX1,GFI1,G6PT1, G6PC3変異などが同定されており,本邦ではELANE変異が約75%,HAX1が約20%の頻度である。責任遺伝子と病因・病態についての詳細は不明である。

上記の通り、SCNの主な原因遺伝子としてELANEが挙げられる。(約半分の症例で認められる) ELANEの変異が起こると、好中球の成熟が妨げられてしまう。これを遺伝子編集で治療することを試みたのが今回の論文です。

 

筆者らはCRISPR/Cas9システムを用いて、マウス造血幹細胞のELANE遺伝子エクソン部分を編集することで好中球の停止を防いだり、逆に再現したりすることができたと報告しています。

 

これまでにも同様の試みはされてきましたが、同疾患のモデルマウスは作ることができていませんでした。

 

これが可能となると、例えば病気の人の造血幹細胞を取り出し、遺伝子編集を施し、またもとに戻す(自家移植)という治療が可能となります。

 

これが可能となると他の疾患でも同様に治療できるものも出てくるかもしれません

【文献紹介】HSCの冬眠

Stem Cell Report誌のMost readです。

 

文献紹介に入る前に背景の解説です。

造血幹細胞HSCの「冬眠=hibernation」という言葉が最初に使われたのは私の知る限りYamazaki et al.の2006年の論文↓

Yamazaki S, et al. Cytokine signals modulated via lipid rafts mimic niche signals and induce hibernation in hematopoietic stem cells. EMBO J. 2006 Aug 9;25(15):3515-23.

 

HSCが枯渇を防ぐため普段はそのほとんどが休止状態にあるが、なぜ休止状態が維持されるのかよくわかっていなかった。筆者らは線虫C. elegansの冬眠に関与するPI3K–Akt–FOXO経路がHSC休眠にも関与することが分かった。このように他の生物の冬眠と似通っている点があることから筆者らは休止状態のことを冬眠と表現している。

 

もう少し具体的に言うとサイトカイン刺激に反応して起こる細胞表面の脂質ラフトの凝集が細胞増殖やアポトーシス誘導に重要な役割を果たしており、さらにHSCニッチはこの脂質ラフト凝集を防ぐ効果があるためにHSCを細胞周期停止状態で維持できるということがわかった。この一連の過程にPI3K–Akt–FOXO経路が関与している。

 

筆者らは脂質ラフト凝集を阻害すれば試験管内でもHSC冬眠を再現できるとし、また冬眠によってもHSCの幹細胞は損なわれないと報告している。

 

その後の文献で筆者らは、TGF-β活性化が冬眠状態維持に重要であること、このTGF-β活性化を担っているのは神経細胞であるグリア細胞であることなどを発表している。

Yamazaki S, et al. Nonmyelinating Schwann cells maintain hematopoietic stem cell hibernation in the bone marrow niche. Cell. 2011 Nov 23;147(5):1146-58.

 

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で、今回紹介する文献↓

Oedekoven CA, et al.

Hematopoietic stem cells retain functional potential and molecular identity in hibernation cultures.

Stem Cell Reports. 2021 Apr 27:S2213-6711(21)00197-1.

 

  • 過去の研究から、stem cell factor(SCF)とトロンボポエチン(TPO)がHSCの自己複製・増殖に必要であることはわかっていたが、維持するだけにも必要かは疑問視されていた。
    →筆者らはまずこれを検証した。
  • SCFなしでも7日間の培養で20-40%程度のLT-HSCは生き残ることができる。またそのほとんどは単一細胞状態(分裂しない)。
    →最小サイトカイン状態で生きる「冬眠」に近い状態では?
  • SCFとTPOなしで冬眠状態で培養したHSCをマウスに移植すると…冬眠させていないHSCと成績はほぼ変わらず。つまり冬眠させても再増殖能は維持される
  • 特にCD150+のLT-HSCは生存率高い。
  • 冬眠中でも、レンチウイルスによる形質導入が可能
  • 冬眠後HSCとFreshHSCは分子機構も似ている。
  • ヒトHSCでもやはり単一細胞で7日間保持。
  • 冬眠状態のまま培養できることにって様々な実験に応用可能。また冬眠中もウイルスによる形質導入が可能であったことから、冬眠中に遺伝子組み換えを行うなどの技術も発達するかもしれない。