今回は簡単な紹介です。例によって背景説明などの前置きが長くなります。
Lv K, et al.
HectD1 controls hematopoietic stem cell regeneration by coordinating ribosome assembly and protein synthesis.
Cell Stem Cell. 2021 Mar 4:S1934-5909(21)00058-8.
HectD1とは?
HECTD1はE3ユビキチンリガーゼで、神経管閉鎖と間充織の正常な発生に必要とされています。
出典: Cell Signaling ユビキチンリガーゼ表
ユビキチンリガーゼ (ubiquitin ligase) またはE3ユビキチンリガーゼは、ユビキチンが結合したE2ユビキチン結合酵素を呼び寄せ、タンパク質の基質を認識し、E2から基質へのユビキチンの転移を助ける、もしくは直接的に触媒するタンパク質である。
出典:Wikipedia
ユビキチンとは何かを簡単に説明しておきます。
タンパク質は必要なときに合成され、いらなくなったら分解されるというのを繰り返しています。(アミノ酸からタンパク質は作られ、またアミノ酸に戻ります。)
いらなくなったというサインを出すのがユビキチン化です。いらくなくなったタンパク質にはユビキチンが付加され、それを目印にタンパク質はプロテアソームで分解されます。
出典:Ayumi Media -生き抜く子供を育てたい-
上図は高校生向けの生物解説ページのようですが、わかりやすいので図をお借りしました。
で、今回の論文は、そのユビキチンリガーゼの1つであるHectD1の造血幹細胞(HSC)機能に関する役割を明らかにすることを目的としています。
- HectD1ノックアウトによって、HSCの移植後生着やex vivo培養増殖が損なわれる。
- HECTD1はストレス条件化で造血幹細胞・前駆細胞タンパク質の合成と増殖を調節する。
- HectD1によるユビキチン化を通して、リボソーム60Sサブユニットの集合因子であるZNF622を分解する。つまりHectD1は以下のような機能を示すと考えられる。
Hectd1がZNF622をユビキチン化
→ZNF622が分解される
→リボソーム60sサブユニットと40sサブユニット
が合わさり80sサブユニットとなる
→タンパク質合成
→HSC再構築 - HectD1欠損HSCでは上記機構が障害され、HSC再構築が起きないが、HectD1欠損HSCでもZNF622を欠損させればHSC再構築能は復活する。