こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】HSC再構築能に関するHectD1の役割

今回は簡単な紹介です。例によって背景説明などの前置きが長くなります。

 

Lv K, et al.

HectD1 controls hematopoietic stem cell regeneration by coordinating ribosome assembly and protein synthesis.

Cell Stem Cell. 2021 Mar 4:S1934-5909(21)00058-8.

 

HectD1とは?

HECTD1はE3ユビキチンリガーゼで、神経管閉鎖と間充織の正常な発生に必要とされています。

出典: Cell Signaling ユビキチンリガーゼ表

 

ユビキチンリガーゼ (ubiquitin ligase) またはE3ユビキチンリガーゼは、ユビキチンが結合したE2ユビキチン結合酵素を呼び寄せ、タンパク質基質を認識し、E2から基質へのユビキチンの転移を助ける、もしくは直接的に触媒するタンパク質である。

出典:Wikipedia

ユビキチンとは何かを簡単に説明しておきます。

タンパク質必要なときに合成され、いらなくなったら分解されるというのを繰り返しています。(アミノ酸からタンパク質は作られ、またアミノ酸に戻ります。)

いらなくなったというサインを出すのがユビキチン化です。いらくなくなったタンパク質にはユビキチンが付加され、それを目印にタンパク質はプロテアソームで分解されます。

出典:Ayumi Media -生き抜く子供を育てたい-

上図は高校生向けの生物解説ページのようですが、わかりやすいので図をお借りしました。

 

で、今回の論文は、そのユビキチンリガーゼの1つであるHectD1の造血幹細胞(HSC)機能に関する役割を明らかにすることを目的としています。

 

  • HectD1ノックアウトによって、HSCの移植後生着やex vivo培養増殖が損なわれる。
  • HECTD1はストレス条件化で造血幹細胞・前駆細胞タンパク質の合成と増殖を調節する。
  • HectD1によるユビキチン化を通して、リボソーム60Sサブユニットの集合因子であるZNF622を分解する。つまりHectD1は以下のような機能を示すと考えられる。
    Hectd1がZNF622をユビキチン化
    ZNF622が分解される
    リボソーム60sサブユニットと40sサブユニット
     が合わさり80sサブユニットとなる
    タンパク質合成
    HSC再構築
  • HectD1欠損HSCでは上記機構が障害され、HSC再構築が起きないが、HectD1欠損HSCでもZNF622を欠損させればHSC再構築能は復活する。