こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】造血幹細胞ニッチと造血幹細胞の体外増殖に関するレビュー~その1~

本日も文献紹介です。昨日とテーマは同じで造血幹細胞の増殖についてです。

 

 

 

造血幹細胞移植は、新たな造血システムを白血病患者などに提供する有効な治療だが、患者・ドナーから得られる造血幹細胞(HSC)は数が少ないため、HSCの体外増殖が重要となってくる。HSCは生体内においてはニッチ(微小環境)によって増殖しているが、生体外でにおいてこれを実現するのは未だ難しい。

 

1.HSC体外増殖の重要性

・造血幹細胞(HSC)は、自己複製能と多能性を有し、全ての成熟血液細胞に分化できる。主に成体骨髄に存在し、生体内の細胞の0.01%と非常に数が少ない。

・造血幹細胞移植は、レシピエントに新たな造血機能を与えることができ、白血病など血液疾患の治療に重要である。

・自家移植、同種移植、臍帯血移植などがあり、自家移植の5年生存率が80%であるのに対し、同種移植のそれは30-70%と未だ十分ではない。

・移植の成功には十分な数のVD34+ cell(例えば3-4x10^6/kg)が必要である。

つまり、より効果的な移植治療のためにHSCを体外で増殖させることが重要!

・HSCの自己複製と分化をコントロールするには、転写因子、細胞周期、代謝経路の他、ニッチ=Niche(微小環境)が必要不可欠とされている。

・HSCには対象分裂と非対象分裂がある。また多くは休止期にあり、DNAが損傷を受けるなどストレスを受けた際に増殖が誘発される。

HSC増殖のためには、分化を伴わず自己複製能を保ったままHSCが対象分裂することが必要。

 

2.ニッチ内におけるHSCの位置

・成体ニッチは非常に不均一。骨内膜ニッチと血管性ニッチがあり、後者はさらにarteriolar componentsとsinusoidal componentsがある。

・休止期HSCは細動脈近くに、活性化したHSCは類洞近くに存在すると考えられている。

・両方のニッチの様々な因子がHSC維持に関与…たとえば…

 骨内膜骨芽細胞、類洞血管、血管周囲間質細胞、制限性T細胞、巨核球などは、
 はマウスHSCの近くに存在。
 しかし比較的離れている骨芽細胞も影響を与えるとされている。
 (骨芽細胞はlong-term culture-initiating cells (LTC-ICs)のin vitro長期培養に
 役立つとの報告あり。)

副甲状腺ホルモン(PTH / PTHrP)受容体(PPR)がマウスの骨芽細胞にに導入されると、NotchリガンドJagged1が生成→骨芽細胞増加→HSC増加 骨芽細胞はHSC増殖に関与?

・Jagged-1を介したNotchリガンドシグナル伝達はHSC自己複製を支持し枯渇を防ぐ。

 

3.ニッチ細胞によるサイトカイン選択

・ニッチ細胞は種々のサイトカインと成長因子を分泌。

・SCF(骨芽細胞・内皮細胞から分泌)、TPO(骨芽細胞から分泌)、CXCL12・Notchリガンド(Jagged1など)・プレオトロフィン(ここまでレプチン受容体陽性血管周囲・内皮細胞)などが主に重要。

・その他、類洞周囲巨核球(MK)の抑制的役割についても研究されている。MK枯渇はHSC拡張につながる。MKが分泌しているCxcl4を投与するとHSC数減少する。

 

4.WntシグナルとHSC自己複製

・Wntシグナルは、ヒト・マウスともにHSCの維持に重要だが、状況依存的に自己複製能に作用する。

・Wnt毛色の主要構成要素のβ-カテニンは自己複製を増強する作用があり。Wnt3a欠損マウスは出生前に死亡してしまう。

・Wnt分泌に不可欠なPorcn因子の欠損やβ-カテニン・γ-カテニン欠損は造血に影響ないとの研究も→この機序は未だ未解明。

・β-カテニン活性化は細胞周期を活性化し、多系統分化を誘導。HSC枯渇にもつながる。

・Wnt非標準経路の主要な因子であるフラミンゴ(Fmi)欠損はHSC頻度低下につながる。

・マウス自己複製に関するWnt/β-カテニン経路はかなり研究が進んでいるがまだDiscussionの余地あり。

 

5.HSCの代謝コントロール

・Lkb1腫瘍抑制因子の欠損はHSC休止状態を阻害し、HSC枯渇につながる。

・PPAR-δ喪失やミトコンドリアFAOの阻害はSHC自己複製能阻害や対象分裂阻害につながる。

・体内ブドウ糖レベルの一時的上昇が機能的HSCの誘導につながる可能性がある。

グルコース上昇→ミトコンドリア活性酸素(ROS)上昇→低酸素誘導因子(Hif1α)誘導

→HSC数上昇 (逆にROS阻害・Hifα阻害によってHSC数減少)

・マウスHSCはミトコンドリア参加的リン酸化回路ではなく解糖系を使うと考えられてきた。(HSCは低酸素状態に存在しており、これに適応するため)

...まとめるとHSC自己複製は解糖系に関連した代謝的調整を受けている。

 

6.ミトコンドリア、低酸素と活性酸素(ROS)

ミトコンドリアはエネルギー生成に不可欠。哺乳類のHSCはミトコンドリア含有量が低く酸素消費が少ないATP含有量が少ないが、ラクテート産生量は多い。→HSCが参加的リン酸化経路ではなく解糖系を利用していることを示唆。

ミトコンドリアホスファターゼであるPtpmt1−/−欠損マウスはHSC数40倍に。HSC分化が阻害されている。→ミトコンドリア成体エネルギーはHSC分裂に関与?

・低酸素誘導因子Hif1α…正常酸素状態では分解、低酸素状態では安定。HSCではこれが安定化している。Hif1α欠損マウスでは休止期HSCがなくなりHSC数が減少

→低酸素/Hif1α依存的にHSCの休止期や自己複製は制御されている可能性がある。
 (Hif1αはSCFやTPOによってより安定化する)

・低酸素状態は生体内でのHSC維持に関与している。

・別の見方をすると、ミトコンドリアの好気性代謝は、HSCにおける活性酸素(ROS)生成の主な原因である。休止期HSCのROSは低く、これが高い自己複製能と長期生存に関与している。一方で高いレベルのROSは分化・増殖あるいはHSC喪失につながる可能性あり。→HSC体外増殖でもROSは重要である可能性あり

 

7.HSC ex vivo 増殖~現状と今後~

次回。