目に留まった文献の紹介。
Remodeling of metabolism and inflammation by exercise ameliorates tumor-associated anemia
本文より
"A considerable number of patients with cancer suffer from anemia, which has detrimental effects on quality of life and survival."
大変多くのがん患者が貧血に悩まされており、患者のQOLおよび生存率に多大な影響を及ぼしている。
→全くその通り。なので、目に留まり読んでみた。
【Introduction】
- 貧血は最も頻繁に報告されるがん合併症の1つ。
- 新たにがんと診断された患者の1/3程度は貧血に苦しんでいる。
- 腫瘍縮小治療中に75%は貧血を経験する。
- 倦怠感などの症状を呈し、QOLに直結するほか、生存率の独立した予測因子。
- この原因は様々: 出血(Out増加)、栄養摂取・吸収の減少、悪性腫瘍骨髄浸潤、放射線化学療法などなど。
- 上記に加えてサイトカインレベル上昇もまた貧血に関与している可能性がある。
- 炎症性サイトカインであるインターロイキン-1β(IL-1β)、IL-6、および腫瘍壊死因子-α(TNFα)の血漿レベルは、癌患者のHbレベルと負の相関あり。
- 心不全・腎不全などの合併症も多い。
→このような炎症によってEPO産生が抑制されることも。 - 炎症性サイトカインは赤血球の寿命を短縮する可能性がある。
- マウス腫瘍モデルをもとに、腫瘍関連貧血のメカニズム解明とその対策について検証する。
【Results】
- 肺がんモデルマウスを作成→3.5週間以内に重度の貧血を誘発し、5g/dl未満のHbレベルに達した。
→造血が低下しているのではないか?
→骨髄と脾臓のTer119+(前赤芽球以降の赤血球系譜細胞は TER119 抗原を発現)細胞を調査。
→赤血球は減少どころか増加していた。(特に未熟な赤血球が増加) - 産生↑でないなら消費↑か?
→マウスにビオチンを注射→ビオチン化赤血球を作る
→Controlマウスよりがんマウスの方が早くビオチン化赤血球が減少
→がんモデルマウスでは赤血球消退がはやい! - がんモデルマウスではEryptosis(赤血球のアポトーシスのこと)ホスファチジルセリン陽性細胞が正常の5倍。
- がんモデルマウスでは脾腫になる→これが赤血球破壊を生み出している?
→さらなる実験でがんマウス脾臓ではマクロファージが増加し、これが赤血球を貪食しているのでは?と結論付けられた。 - 脾腫は白血球増加によるものではなく髄外造血の結果。
- 赤血球関連遺伝子の発現も増加。
- これらの変化はなぜ起こる?→炎症性サイトカインを腫瘍マウスとコントロールマウスで調査してみた。→IL-1β上昇していた。
- その後の遺伝子解析などで
IL-1受容体1が赤血球で発現→IL-1βがカスパーゼ3を活性化することによってホスファチジルセリンの外在化を促進する可能性がある
ことが判明した。 - その他、脂質のプロファイルも変化: 遊離脂肪酸、中性脂肪が腫瘍マウスでは増加
- 実際に腫瘍マウスは皮下脂肪減少がみられた。
- 脂肪酸取り込みに関連する遺伝子の発現を調査
→カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1a(Cpt1a)およびCpt2の発現レベルは腫瘍マウスで低下。 - ミトコンドリアへの脂肪酸の取り込みも減少
- 脂肪酸の酸化と酸化的代謝に関与する遺伝子のmRNA発現も腫瘍マウスで減少
- これらの問題はどうやって改善できる?
ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体β/δ(PPARδ)(GW501516)またはPPARα(フェノフィブラート)アゴニストでマウスを治療
→筋肉または肝臓の脂肪酸酸化を薬理学的に増加
→血漿トリグリセリドレベルを低下させる
ことを考える。上記の効果は持久力運動によっても得られる。 - フィブラートで腫瘍マウスを治療すると中性脂肪は減少し、また赤血球アポトーシスも起こりづらくなる。
→トリグリセリドを下げるとホスファチジルセリンの外在化が減少する可能性がある。
※トリグリセリドの存在が赤血球アポトーシスを促進しているため。 - しかしフィブラート投与でも腫瘍マウスの貧血は抑えられず…どうやらこれは主原因ではないよう?
- 対してマウスに運動させると…ホスファチジルセリンの外在化が抑えられると同時にRBCサイズ増加も抑えられた。
※フィブラートなどの薬剤投与より大きな効果。貧血発症も抑えられる。 - 運動は血中の脂質プロファイルを正常化するだけでなく、抗炎症反応などのさまざまな全身効果を誘発する。
→IL-1βレベルの上昇も運動によって抑えられる。 - また、運動したマウスでは
・脾臓の肥大が抑えられた。
・EPO上昇が抑えられた。
・赤血球径の減少もみられた。
などの変化が観察された。 - また、物理的パフォーマンスに関しても調査。
→運動していない腫瘍マウスより長く走ることができた。また健康であるはずのControlマウスより持久力が上がった。
まとめると…
- 運動によって赤血球に好ましい環境を維持し、赤血球生存を促進することにより腫瘍関連貧血の発症を抑える効果がある可能性がある。