抄読会で扱った文献の紹介です。
Khan N, et al.
M. tuberculosis Reprograms Hematopoietic Stem Cells to Limit Myelopoiesis and Impair Trained Immunity.
Cell. 2020 Oct 29;183(3):752-770.e22.
結核と造血幹細胞(HSC)の関連については、以前にも記事を書いています。
上記の記事にもある「BCGがHSCを教育し結核菌耐性を獲得する」という論文が今回の著者らの先行論文であり、かなり関連する内容も含まれています。
前回の論文は、BCGをマウスに打つとHSCはどのように変化するか?という内容だったのですが、今回はBCGではなく実際の結核菌を打ったらどうなるのか?という内容です。
基礎知識に関しては上記ブログでも記載していますが、今回も軽く解説します。
<基礎知識>
- 免疫には適応免疫と自然免疫があり、メモリー機能があるのが前者の特徴。多くの生物は自然免疫のみでやりくりしている。
- しかしこれらの生物がメモリー機能を有していないかというとそうではない。
- Trained immunityという概念が2011年に初めて発表された。
・BacilleCalmette-Guérin(BCG)摂取を受けている乳児は生存率が改善。
・後に新生児敗血症はBCG接種者でプラス効果があることがRCTでも証明された。
・ギニアで麻疹ワクチン接種→麻疹死亡率低下以上に乳児死亡率が大幅減少。
・BCG接種すると…
結核菌に対する特異的インターフェロン-γ(IFNγ)反応あり。
しかしそれだけでなくCandida albicansに対する反応も強く増強。
・これは脊椎動物だけではなく無脊椎動物にも観察される。
Netea MG, van der Meer JW. Trained Immunity: An Ancient Way of Remembering. Cell Host Microbe. 2017 Mar 8;21(3):297-300. - 上記の他の文献も多々あり→アフリカでのRCT
BCG接種を受けている小児の方が有意に死亡率低い
Garly ML, et al. BCG scar and positive tuberculin reaction associated with reduced child mortality in West Africa. A non-specific beneficial effect of BCG? Vaccine. 2003 Jun 20;21(21-22):2782-90. - BCG接種によって単球機能が増強→これは少なくとも3か月持続する。
Kleinnijenhuis J, et al. Bacille Calmette-Guerin induces NOD2-dependent nonspecific protection from reinfection via epigenetic reprogramming of monocytes. Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 Oct 23;109(43):17537-42.
単球の寿命は数日のはずなのになぜ?→これに1つの答えを提案しているのが筆者らの先行論文。BCG接種によってHSCの性質が変わり、これがTrainされた単球を輩出しているのでは? - BCG接種者ではCOVID-19死亡率が低いとの報告もあり。これはまだ後ろ向き研究のみ。
Moorlag SJCFM, Safety and COVID-19 Symptoms in Individuals Recently Vaccinated with BCG: a Retrospective Cohort Study. Cell Rep Med. 2020 Aug 25;1(5):100073.
<本文>
- BCG接種マウスと結核菌投与(IV)マウスを用意。後者は100日程度で死亡。両者ともにKSL細胞数、割合ともに増加。
- 結核感染はKSLには起こらずLin+細胞に起こる。
- 結核菌投与群でCMP, GMPは増加、CLは減少。しかしBCG接種群ではいずれも時間が経つと増加。また成熟血球は結核投与群で減少。
- BCGは結核菌を何度も継代し毒性を失わせている→この過程で遺伝子の中のRD-1領域が失われるのが両者の反応の違いをもたらしているのかも?
- 脾臓でもほぼ同様の効果→結核菌感染によって骨髄においても脾臓においても造血が阻害される。
- RNA bulk sequwnce:BCG投与群と結核投与群でHSCとMPPの性質を比較
→両者には大きな違いがある。INF反応性や鉄代謝に関する遺伝子発現に差あり。 - ここまでの実験は結核感染をIVで行っていた。→ではより実際の感染様式に近いエアロゾル感染では?
→IV感染とほぼ同様の結果。KSL細胞増加やCMP, GMP減少、CLP増加が確認できた。IVよりも早く感染10日程度でIV感染120日と同等のレベルまで結核菌増加。
→感染経路によらず結核菌感染で造血が障害される。 - RNA分析によって、これにはIFN経路が関与していることが示唆された。
- INFノックアウトすると結核菌耐性アップ。結核感染後のマウス再感染時の抵抗性はINF依存的。
- Poly I:Cを使用しても同様の反応。結核菌投与ど同様の反応見られ、これはINF依存的。
- 結核菌投与マウスではRIPK3依存的なNecroptosisが増加。
- 鉄代謝異常やミトコンドリア活性酸素沈着などが起きる。
- HSPCの転写プロファイルが変化し、少なくとも120日持続。
- 筆者らの考える結核感染によっておこる変化
結核感染→INF-Iシグナル
→鉄代謝異常(ミトコンドリア鉄低下、CD71発現抑制、骨髄鉄沈着)
→ミトコンドリア障害→CMPなどでNecroptosis
→造血抑制&結核抵抗性低下