抄読会で扱った論文の紹介。
とてもユニークな内容。
Cell size is a determinant of stem cell potential during aging
前提知識
- 造血幹細胞(HSC)の成長はmTOR経路によって制御されている。
→mTORはラパマイシンの標的でもある。(ラパマイシンによってmTOR経路が阻害される。) - サイクリンD-CDK4/6複合体:細胞周期進行に関与。
これの投与でHSCは静止期から抜け出し、細胞周期に入る。 - 網膜芽細胞腫(Rb)タンパク質:上記複合体は、このRbを不活性化することによって細胞周期を開始する。逆にRbはG1→S期の意向を阻害することによって細胞周期を止める。
- 老化した細胞はサイズが大きい。
細胞が分裂を繰り返すほど、細胞周期停止を引き起こす遺伝子損傷が起きる可能性が高くなり、細胞径増加につながる。
↑継代数が増えるにつれて細胞径の大きな細胞が増えていくという図
(Mitsui et al. Mech Ageing. 1976) - 細胞径が増加すると細胞機能は低下する。
- 細胞が大きくなるから細胞機能が起きるのでは?
これまではIn vitro実験のみであったが、本報告はIn vivoでの実験を報告。
Main
- 若齢マウスにX線照射(3Gy)→2週間後にHSC分離
→HSC細胞径はX線照射マウスで有意に拡大。老化マーカーであるSA-ß-Gal 活性を調査すると、照射細胞で有意にSA-ß-Gal highな細胞が多い。
(SA-ß-Gal high細胞はSA-ß-Gal low細胞より細胞径が大きい) - ラパマイシンを投与してみる。
(細胞増殖を抑える効果があり抗がん剤としても使用される。)
→X戦照射による細胞拡大を拮抗できる。(DNA損傷レベルはラパマイシン投与の有無でも変化なし) - X戦照射→ラパンマイシン投与のHSCを移植→再構築能改善
- ダメージ細胞はなぜ大きくなる?
DNAダメージ→それを修復するために細胞周期がG2期で停止
(しばらくするともとに戻る)
→だから大きくなる。
薬剤によってこれを再現してみる
→Cdk4/6阻害剤PDを用いて細胞周期をG1期で止めてみる。
→細胞径はやはり大きくなり、再構築能も低下。
→ラパマイシン投与でこの効果を拮抗できる。
※PD処理でも大きくならなかった細胞を移植に使ってみると…再構築能は保たれている。 - これまでの実験はDNA損傷が機能低下に寄与しているだけで細胞径はただの結果なのでは?→そこでDNA損傷を伴わず細胞径だけ大きくしてみる。
mTOR阻害剤を使用→DNA損傷がほぼ起きることなく細胞サイズだけ大きくなる
→移植後再構築能が低下!
→細胞が大きくなると再構築能が低下する。 - 分裂回数が多くなると細胞は大きくなる。例えば妊娠を経験したマウスのHSCは大きい。
- X線照射や移植で細胞周期はまわり、大きさも大きくなる。
→ラパマイシン投与でこれを拮抗できる。 - ではもともと大きいHSCはどうか?HSCを大きさで3種類に分けてみる。
→大きいHSCはDNA損傷レベルが高い。また移植後再構築能も低い。 - HSC機能低下を招く要因
①X線照射
②Cdk4/6阻害剤
③mTOR活性化
④頻繁な細胞分裂
⑤もともと大きいHSC - ではもともと大きいHSCと阻害剤で大きくHSCには違いはあるの?
→コロニー形成能=増殖能はどちらも低下。
しかしhoming能や分化能、表面マーカーには違いなし - 大きいHSCは代謝能が低下している。
- 他の成体幹細胞はどうなの?→腸管上皮幹細胞も大きな細胞では増殖能低下が見られる。
- HSC肥大は加齢に伴うHSC機能低下にも関与。
若齢期からラパマイシンを投与すると高齢期でのHSC肥大化が抑えられる。 - しかし既に老化したマウスにラパマイシンを投与しても移植後再構築能の上昇にはつながらず。
- ヒトでは?→ヒトHSCでもやはり大きさと機能には関連あり。