こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】造血幹細胞機能に関与するサイトカイン

Zhang CC, Lodish HF.

Cytokines regulating hematopoietic stem cell function.

Curr Opin Hematol. 2008;15(4):307-311.

 

2008年発表とやや古めですが、読んでみました。

 

  • Stem cell factor (SCF)
    多くの細胞で発現している。すべてのHCSに発現しているチロシンキナーゼ受容体であるc-Kitに結合する。c-Kitに問題が起きるとHSC再増殖減少につながる。HSCのアポトーシスを防ぐ効果が示されており、HSC培養にこれまで使用されてきたほぼすべての組み合わせにSCFは含まれている。膜結合型SCFは骨髄環境へのHSC接着因子でもあり、これが阻害されると末梢血HSC動員が増加する。

  • トロンボポエチン(TPO)
    巨核球と血小板の発達調整に重要なサイトカイン。TPOとその受容体Mpl(すべてのHSCはMplを発現している)は原始造血にも重要。TPO-/-またはMpl-/-マウスでは再増殖HSCの減少がみられる。

  • Notchリガンド
    NotchリガンドDeltaおよびJaggedは、リンパ球生成、HSCの生成・分化抑制作用・増殖に重要な役割を果たしている。また体外でのHSC分化増殖にも関与。活性化されたNotchは、マウス造血幹細胞を不死化することができ、HSC培養増殖において重要な役割を果たす。少量のDelta1が人さい帯血SRCの増殖を助けるのに対して大量のサイトカインはアポトーシス誘導につながるといった複雑な関係もみられる。

  • Wnts
    Wntシグナル伝達はHSCの生成と増殖に関与している。近年、Wntシグナル伝達はBCR-ABL誘発性慢性骨髄性白血病の幹細胞の自己複製に重要であると報告されている。Wnt5aは、HSCのCanonical Wntシグナル伝達を阻害することによってHSC増殖を助け、またHSCの静止期維持に役立っている。またES細胞からHSC生成を誘発する。

  • TGF-β
    TGF-βはHSC活性を阻害する作用がある。TGF-βスーパーファミリーの1つであるBMPは、発達の過程におけるHSC特化に関して非常に重要な役割を果たす。BMP4はの増殖をサポートする効果もある。

  • 線維芽細胞成長因子
    全てのLong term HSCは線維芽細胞成長因子(FGF)受容体を発現する。FGF-1,2はHSCの体外増殖を促進する役割がある。また、増殖した細胞はレトロウイルスベクターによって効率的に伝達される。FGF-1条件付き誘導体は培養におけるshort term HSC増殖とLong term HSC生存を補助する効果があるが、一方でFGFR受容体阻害剤SU5402によってHSC再増殖活性が増強するなど矛盾した研究結果も報告されており、FGFシグナル伝達のクロストークが複雑であることを示唆している。

  • ATG
    アンジオポエチン(Atg)ファミリーの成長因子は、Tie-2チロシンキナーゼ受容体に結合する4つのメンバーで構成され、血管新生の主要なモジュレーターである。Tie-2 / Ang1シグナル伝達経路は、骨髄ニッチにおける静止状態でのHSCの維持に重要な役割を果たしている。

  • Insulin-like growth factor 2
    15日胚マウス肝臓から分離されたCD3+Ter119細胞がHSC増殖をサポートすることが分かり、これらの細胞で特異的に発現していたのが、IGF-2であり、胎児の肝臓と骨髄の両方のHSCのexvivoでの拡張を刺激するとされている。IGF-2がHSCの自己複製、アポトーシス、分化、またはホーミングに作用するかどうかは不明。

  • Angiopoietin-like proteins
    Angptlsは、アンジオポエチンと配列相同性を共有する7つの分泌糖タンパク質のファミリー。Angptlsがアンジオポエチンとは異なる機能を持っていることが示唆され、血管新生、代謝、腫瘍形成に関与しているのではないかなどとされている。最近の研究でAngptl2とAngptl3が骨髄HSCのex-vivo拡張を刺激する成長因子であることが分かったが、Angptlsの生理学的活動のほとんどは不明のままではあり、さらなる研究が必要である。