最近、千葉大から発表された論文です。
Onodera, A., González-Avalos, E., Lio, CW. et al.
Roles of TET and TDG in DNA demethylation in proliferating and non-proliferating immune cells.
Genome Biol 22, 186 (2021). https://doi.org/10.1186/s13059-021-02384-1
- 著者らはTET欠損が免疫細胞に及ぼす影響について研究した。
→TET欠損はゲノム化学構造に異常をきたし、炎症を増悪させる効果があることが分かった。 - 炎症反応には2種類ある。
①細菌・ウイルスの侵入時の生体防御機構として炎症反応
②過剰なまたは異常な炎症反応:アレルギーや自己免疫疾患など
(本来免疫が働かなくていいところで働いてしまう) - 加齢に伴い、①の生体防御に必要な炎症反応の機能は低下してく。
- 加齢に伴い多くの遺伝子変異が蓄積されていくことが分かっているが、その1つとして知られているのがTET2遺伝子変異である。
→TET2遺伝子が変異した細胞は生存優位性を獲得する=つまりどんどん増加する。
→これがクローン性造血…白血病の全がん状態に相当(大腸癌で言うところのポリープのような状態)
また白血病だけでなく血管の炎症とも関連し、心筋梗塞や狭心症などのリスクも増加することが分かっている。 - 研究チームは加齢とTET遺伝子、炎症・免疫の関連を調査。
- TET欠損マウスではLPS(炎症惹起物質)で刺激して、炎症を起こさせると、マクロファージにおいて炎症を引き起こすIL-1bやIL-6の分泌や関連遺伝子発現がWTと比較して大きく上昇する。
- これをもとにDNA網羅解析を用い、TET酵素と関連が深い遺伝子のゲノム上での位置の特定に成功。
- TET遺伝子から作られるTET酵素は、脱メチル化を誘導することによって特定の遺伝子をONにする効果がある。
→筆者らの研究によりこの脱メチル化は受動的なものと能動的なもの2種類あることが分かった。また、免疫細胞で起こるメチル化の大部分は受動的機構に関与することも分かった。 - 受動的なメチル化、能動的なメチル化は細胞の種類によって使い分けられていることも判明。
- これまではTET2遺伝子変異と疾患との関連が多く報告されており、実験もTET2欠損マウスを使って行われるものが多かったが、今回の研究チームはTET1,3ともに欠損させるTET完全欠損マウスを使って実験を行った。TET2欠損のみでは疾患発症まで数カ月かかるが、TET完全欠損マウスを使うと疾患発症までの期間も老化までの期間も短縮することができる。
- IL-1bやIL-6などの炎症性サイトカイン遺伝子発現の顕著な上昇からこれらが関与する血管炎症の抑制にはTET酵素活性が重要であることが示唆された。
- また次世代シークエンスを用いた解析にて、炎症性サイトカイン遺伝子の近くにメチル化市都心が蓄積することも明らかになった。
→TET酵素が5hmC集積を介して炎症性サイトカイン遺伝子発現をOFFにする機能を併せ持つ可能性を示唆している。