こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

肥満と造血幹細胞

なんとなくおもしろそうだと思ったので、流し読みしてみた内容を紹介します。

 

Bowers E, Singer K.

Obesity-induced inflammation: The impact of the hematopoietic stem cell niche.

JCI Insight. 2021 Feb 8;6(3):145295. 

 

Abstract

  • 代謝組織におけるLy6chi単球・好中球などの炎症前駆細胞の蓄積により肥満は引き起こされる。
  • この慢性的な軽度炎症が肥満状態の特徴であり、肥満関連合併症の特徴でもある。
  • 骨髄内の造血前駆細胞HSPCにどのように肥満が影響しているかに関する研究は近年注目を集めている。
  • これまでの研究では肥満によって骨髄系への分化能が偏ったHSPCが産生されると言われてきたが、ニッチが肥満誘導性造血においてどのように調節されているかは分かっていない。

本文

  • 肥満は世界的に急増している。
  • 脂質過剰に伴い脂肪組織が拡大していき、これが慢性軽度炎症を惹起し、様々な肥満関連疾患につながる。
  • 骨髄で産生された単球が炎症性マクロファージに分化。好中球も増加し、脂肪組織に出入り→組織炎症と代謝障害を惹起。
  • 肥満患者では多能性前駆細胞、骨髄系共通前駆細胞、前顆粒球、マクロファージ前駆細胞などの増加が見られる。
  • 肥満によってIL-6、TNF-α、IL-1βなどのさまざまな炎症誘発性サイトカインのレベルの上昇がみられる。
  • 肥満モデルで炎症性骨髄造血が促進されるメカニズムは不明。食事成分と炎症経路の両方が関与。
  • HSCは定常状態では休止状態にあるが、炎症などのストレス負荷時は細胞周期が回る。これには上記の炎症性サイトカインが関与している。
  • TLR4伝達を遺伝的にブロックするとTNF-α, IL-6レベルが低下し、インスリン抵抗性の改善や脂肪組織マクロファージレベルの低下につながる。マウスではHSC、骨髄系共通前駆細胞の減少が見られる。
  • 肥満HSPCでは骨髄分化(Csfr1、Spi1、Runx1)、骨髄活性(Stat3およびStat6)、および細胞周期活性化因子(Cdk1およびCcna29)に関連する遺伝子の発現が上昇している。
    TGF-βシグナル伝達が阻害され、HSCを静止状態から増殖状態に移行させると考えられる。
  • 骨髄の脂肪組織には2つある
    ①constitutive骨髄脂肪組織:出生時からあり密閉されている
    ②regulated骨髄脂肪組織:可変的 状況に応じて拡大したりする
    この骨髄脂肪組織がHSC調節サイトカインの調節因子ではないかと言われている。
    (G-CSFやCXCL12の供給源であると示唆されている。)
  • 脂肪細胞由来のアディポネクチンはHSC増殖を促進。p38 MAPK活性化を促す。
  • G-CSFを介した緊急顆粒球コロニー刺激因子は、一部はTLR4を介したBMECを介した炎症性シグナル伝達に大きく依存している。
  • 骨髄血管内皮細胞のHSCニッチとしての機能は耐糖能異常に伴って障害される。また肥満マウスではCXCL12が有意に低下する。
  • 肥満によって上昇するIL-6やTNF-αなどによっては破骨細胞分化が促進され、骨梁減少が促進される。