Sun J, He X, Zhu Y, et al.
SIRT1 Activation Disrupts Maintenance of Myelodysplastic Syndrome Stem and Progenitor Cells by Restoring TET2 Function.
Cell Stem Cell. 2018 Sep 6;23(3):355-369.e9. doi: 10.1016/j.stem.2018.07.018. Epub 2018 Aug 23. PMID: 30146412; PMCID: PMC6143172.
論文の話に入る前にSIRTとTET2について解説。
★SIRT
SIRT1は、ヒストン脱アセチル化酵素の1つである。下流のタンパク質を脱アセチル化する作用があり、抗老化作用や細胞のストレス耐性を高める効果があることが分かっている。発現量を増やすと実験動物の寿命が延びることが知られている。このことからSIRT1を含むサーチュイン遺伝子は長寿遺伝子または長生き遺伝子、抗老化遺伝子などと呼ばれている。そのほかにもSIRT1遺伝子を欠損させたマウスでは記憶障害が生じるなどの効果が観察され、アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症の発症にも関与している可能性も示唆されている。
造血幹細胞との関連に関しては、SIRT1が正常なHSCを移植ストレスから保護することなどが報告されている。しかし悪性腫瘍に対する役割についてはまだあまり明らかになっていない。
参考:
Nature Japan 「長寿遺伝子として知られるSIRT1の活性化で、ALSのモデルマウスが延命!」
★TET2
TET2とは、Tetメチルシトシンジオキシゲナーゼ2のこと。DNAの脱メチル化酵素であり、MDSで最も頻繁に変異が報告されている遺伝子の1つである。変異によってDNAメチル化が促進され、異常な骨髄特異的増殖を促進するとされている。
では本題。まずAbstractから。
- MDSマウスにおいてSIRT1を欠損させると、TET2遺伝子のメチル化が促進され、MDS造血前駆細胞の自己複製と増殖につながる。
- 逆にアゴニストによってSIRT1を活性化させると、TET2遺伝子の脱メチル化が誘発され、MDS造血前駆細胞の維持がしにくくなる。
もう上記がすべてといった感じですが、続いて本文。
まず背景から。
- 造血障害の1つである骨髄異形成症候群(MDS)は、急性骨髄性白血病への形質転換リスクが30%へと増加する。いまある移植以外の治療では直すことができない。
- ヒトの正常な造血幹細胞集団にごく少数でもMDS造血前駆細胞が存在すると、これらは高い自己複製能と増殖能によってやがて正常造血幹細胞群を凌駕してしまう。→この仕組みを解明することは治療にもつながるであろう。
- 今回の研究ではMDS造血前駆細胞(HSPC)におけるのSIRT1欠損が、HSPCの成長と自己複製を促進することを示す。
続いて結果です。
- SIRT1欠損によって、MDS HSPCの自己複製能がアップ。
- SIRT1はMDS細胞のTET2を脱アセチル化し、これを介してMDS細胞の増殖を抑制する。(SIRTのアゴニストであるSRT1720を用いるとこれが誘発される。)
- SRT1720処理によってマウスMDSモデルの異常細胞を修復できる。
AMLでの自己複製能増強にもSIRT1は関与しているが、これはMDSとは異なった形で関与している。
これに関する解説はまた別記事にしたいと思います。