こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】クローン性造血における遺伝子変異

Nature Medicineに出たクローン性造血に関する日本人の文献です。

 

Saiki, R., Momozawa, Y., Nannya, Y. et al. 

Combined landscape of single-nucleotide variants and copy number alterations in clonal hematopoiesis. 

Nat Med 27, 1239–1249 (2021). https://doi.org/10.1038/s41591-021-01411-9

 

  • クローン性造血(CH)は、血液悪性腫瘍の発生率や冠動脈疾患の発生率と関連している。
  • これまでのCH論文は、一塩基バリアント(Single Nucleotide Variant, SNV)かコピー数変化(copy number alterations, CNAs)のどちらかしか扱ってこなかった。
  • 筆者らは血液悪性腫瘍ではない11,234人の被験者の23のCH関連遺伝子の一塩基バリアントとコピー数変化を共に解析した。
  • その後の血液悪性腫瘍発生率、心疾患発症率と関連があるか調査した。
  • 一塩基バリアントとコピー数変化の両方のタイプのCH関連部位の総数とクローンサイズは血液悪性腫瘍発生率と正の相関がみられた。
  • 同じ個人で一塩基バリアントとコピー数変化は同時に見られる割合が高かった(片方が起きればもう片方も起きやすくなる)。
  • また一塩基バリアントとコピー数変化の同時発生は心疾患による死亡とも関連していた。
  • これまでの研究ではどちらかしか見られてこなかったが、どちらもみることが重要。

※補足

一塩基バリアント(Single Nucleotide Variant, SNV)

塩基配列の中で1つの塩基だけが変化すること。

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出典:https://www.garvan.org.au/research/kinghorn-centre-for-clinical-genomics/learn-about-genomics/for-gp/genetics-refresher-1/types-of-variants

 

コピー数変化(copy number alterations, CNAs)

コピー数変化とは、染色体上の1kb以上にわたるゲノムDNAが、通常2コピーのところ、1コピー以下(欠失)、あるいは3コピー以上(重複)となっている現象をいう。ヒトゲノム中の12%にわたる領域に見いだされる。正常ゲノムに多型的に存在する場合や疾患ゲノムの原因として存在する場合などがある。

表1. CNVと疾患関連性の代表例と分子メカニズム[15] [16]

  [15] 疾患の例[15] [16]
① 量依存的遺伝子(dose-sensitive gene) コピー数変化表1.png Charcot-Marie-Tooth病(CMT病1A型) Chr 17 p11上のPMP22を含む約1.4 Kbの領域の重複
遺伝性圧脆弱性ニューロパチー(NHPP) Chr 17 p11上のPMP22を含む約1.4 Kbの領域の欠失
② 位置効果(position effect) コピー数変化表2.png Blepharophimosis症候群 責任遺伝子forkhead box protein L2(FOXL2)の230kb上流にある転写因子の結合部位がCNVにより欠失すると発症する。
③ 劣性アリルの顕在化(unmasking of recessive allele) コピー数変化表3.png   片方のアレルに劣性変異が存在する個体で、野生型アレルが欠失した場合、劣性変異が顕在化する。
④ 遺伝子破壊/遺伝子融合(Gene interruption/Gene fusion) コピー数変化表4.png 融合遺伝子:急性骨髄性白血病(AML)や骨髄異形成症候群(MDS) CNV配列上に遺伝子が存在した場合遺伝子の破壊や融合遺伝子形成が起こる。

出典:脳科学時点