こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

造血幹細胞とTGF−β

勉強したことのメモです。

 

TGF−βとは

トランスフォーミング増殖因子(Transforming growth factor=TGF)は様々な細胞の分化・増殖を制御するサイトカインである。Wikipediaによれば、骨髄・腎臓・血小板などほぼすべての細胞が産生しており、5つのサブタイプが存在するとのこと。

 

造血幹細胞との関連は

造血幹細胞(HSC)は定常状態では多くが休止期にあり、分裂などはせずにニッチ内で生存している。Nakauchi et al.によると、TGF−βが造血幹細胞の分裂を抑制し、休止期を維持するのに役立っているとのこと。TGF−β欠損マウスでは休眠状態にあるHSCが少ないこと、骨髄中でTGF−βを産生している細胞は多くあるがそのほとんどは不活性型で活性型TGF−βを産生している細胞はごくわずかしかないことなどを報告。またこの活性型TGF−βは、血管と並走しているグリア細胞の一種である非ミエリン髄鞘シュワン細胞に貯留していることがわかり、非ミエリン髄鞘シュワン細胞が不活性型TGF−βを活性型に変化させることで造血幹細胞のニッチとしての役割を担うとしている。

※TGF−βは血管と並走する神経細胞の1つであるシュワン細胞とのほか、巨核球からも分泌されるとされている。

Yamazaki S, et al. TGF-beta as a candidate bone marrow niche signal to induce hematopoietic stem cell hibernation. Blood. 2009 Feb 5;113(6):1250-6.

Blank U, Karlsson S. TGF-β signaling in the control of hematopoietic stem cells. Blood. 2015 Jun 4;125(23):3542-50.

 

TGF-βと造血幹細胞加齢の関係

加齢とともに造血機能は低下する。また骨髄球系に分化しやすいMy−HSCがリンパ球系に分化しやすいLy−HSCに比して割合が増加してくるなどの変化も見られる。TGF−βは加齢によって転写レベルで遺伝子発現が変化するとされている。より具体的には、SMAD転写因子などが加齢に伴って変化することによって、加齢HSCではTGF−βの減少につながる。加齢HSCでは、My−HSCの割合が増えてくるという事実と一致している。また、HSCにおいてTIF1-γの発現が加齢に伴って減少することがわかっており、これによってALK5という因子が加齢に伴って増加していくなど。(TIF1γはTGF-β/ SmadおよびWnt /β-カテニンシグナル伝達経路を介してさまざまな腫瘍を抑制すするとされている。)加齢HSCは、このALK5増殖によってTGF−βの細胞休止作用により敏感になるとされている。このようにTGF−βとHSCは加齢に伴って非常に複雑な関係を示す。

 

Blank U, Karlsson S. TGF-β signaling in the control of hematopoietic stem cells. Blood. 2015 Jun 4;125(23):3542-50.