加齢に伴って造血幹細胞=HSCにどのような変化が起きるかについて記事を書きました。
この中でも紹介した通り、HSCは加齢に伴って骨髄系優位な造血をするようになります。
上記記事より抜粋↓
骨髄系優位の造血となる
リンパ球の産生が減少し、骨髄球系の産生が有意な造血系になるとされており、"myeloid bias"など言われている。HSCを構成している細胞群の一部の性質が変化していることによっておこる。個々のHSCの分化能の低下も反映している(多種の血球に分化する機能が低下している)。
Chambers S.M. et al. Aging hematopoietic stem cells decline in function and exhibit epigenetic dysregulation. PLoS Biol. 2007; 5: e201.
de Haan G. et al. Dynamic changes in mouse hematopoietic stem cell numbers during aging. Blood. 1999; 93: 3294-3301.
Rossi D.J. et al. Cell intrinsic alterations underlie hematopoietic stem cell aging.
Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2005; 102: 9194-9199.
しかし今回の論文は少し異なった説を提唱しています。
リンパ球の数は減少せず、アウトプットが減少するということです。
Montecino-Rodriguez E, et al.
Lymphoid-Biased Hematopoietic Stem Cells Are Maintained with Age and Efficiently Generate Lymphoid Progeny.
Stem Cell Reports. 2019 Mar 5;12(3):584-596.
- 加齢に伴ってBリンパ球数の供給数は減少。これが高齢者における予防接種効果減少につながっているのではないかとも言われている。
- HSCコンパートメントにはリンパ球バイアスのあるもの(Ly-HSC)と骨髄球系バイアスのあるもの(My-HSC)があるとされており(それぞれリンパ球や骨髄急に分化しやすい傾向にあるHSCのこと)、加齢に伴うリンパ球減少はLy−HSC減少によるものだと過去には報告されていた。
(細胞表現型分析によれば、My-HSCの割合が増加する一方で、Ly-HSCの割合が老齢マウスで減少することを示した) - しかしこの見方は、HSC数が加齢に伴って増加することを考慮に入れていない。→これを考慮に入れればLy−HSCの数は減少しないと考えられる。
- 高齢Ly−HSCを若齢環境に持ってくると、若齢Ly−HSCと同等のリンパ球系前駆細胞産生能力を示す。
- リンパ球の産生元であるLy−HSC数が減少するのではなく加齢に伴う炎症性サイトカインの産生増加が、リンパ球形成低下につながっているのではないか?と考える。
Results
- Ly-HSCもMy−HSCも加齢に伴って数は上昇していく。Ly−HSCと比較してMy−HSCはより上昇する。
- 細胞増殖マーカーであるKi67陽性細胞の割合は、HSC全体で見れば加齢に伴い減少していくが、Ly−HSCに限定すると若齢でも高齢でも普遍。
- Ly−HSCをドナー細胞として移植すると高齢Ly−HSCでも若齢Ly−HSCでも同じように高い再増殖能を示した。
ちなみにB細胞の発達は
common lymphoid progenitor (CLP)
→pre-pro-B (Fraction A)→early pro-B (Fraction B)
→late pro-B (Fraction C + C′)→pre-B (Fraction D)
→surface immunoglobulin M-positive (IgM+) B cell
と進んでいく。 - 長期培養条件下でも高齢Ly−HSCは若齢HSCと同等にリンパ球を産生。
- 炎症性サイトカイン産生は加齢とともに骨髄腔内で増加するとされている。リパ球産生の加齢に伴う低下に関連している可能性がある。
- IL-1を添加して培養すると、Ly−HSCからのリンパ球産生も、My−HSCからのリンパ球産生も、若齢でも高齢でもほぼブロックされる。
Discussion
- 加齢にともなってリンパ球が減少して行くのは、Ly−HSC喪失によるとこれまではされてきたが、それは修正される必要があるかもしれない。
- HSC数は加齢に伴って増加していき、Ly−HSCの数もまた増加していく。
- 骨髄でできたナイーブB細胞は脾臓に移動し、成熟し、循環に出て行くが、この骨髄を出て循環に入る能力が高齢マウスでは低下している。(これはケラチノサイト成長因子=KGFにて拮抗できる)
- 過去の報告では高齢HSCを若齢マウスに移植しても、若齢HSCほどの再増殖能ではないとの過去の報告と一致していない。これはこれまでの報告は移植前処置として放射線照射を行っているのに対し、今回はブルスファンに前処置を行っているという違いから来ている可能性がある。
- 炎症性因子の産生は全身・骨髄ともに加齢に伴って増加していく。今回の実験結果も過去の報告そのようなサイトカインがリンパ球形成を阻害できることを示している。
- 特にIL-1はin vitroで全HSCからのリンパ球の発達をブロックする。
- 加齢によるリンパ球産生減少は加齢による炎症性サイトカイン産生増加によるものである可能性がある。
- IL-1だけでなくIL-6、および/またはTNF-αなどの因子もこれに関与しているかもしれない。