こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】nicotinamide riboside (NR)投与によって高齢HSCは若返る

抄読会で扱った文献の紹介です。

 

Sun, X., Cao, B., Naval-Sanchez, M. et al. 

Nicotinamide riboside attenuates age-associated metabolic and functional changes in hematopoietic stem cells. 

Nat Commun 12, 2665 (2021). https://doi.org/10.1038/s41467-021-22863-0

 

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nicotinamide riboside (NR)とは

ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(nicotinamide adenine dinucleotide=NAD)の前駆体であり、Vitamin B3のアナログ。NADは酸化型(NAD+)と還元型(NADH)の2つの状態があり、すべての生物における主要な電子伝達体であり補酵素である。生体内で起こる多くの酸化還元反応(特に有名なのは電子伝達系、酸化的リン酸化)において中心的な役割を果たす。

AgingによってNADは減少してしまうことが知られており、これが加齢による再生力低下や疾病発症につながっている可能性がある。

NAD前駆体であるNRの投与によってさまざまな組織でにおける加齢に伴う機能低下を復活させられるという報告がある。

Young HSCとOld HSCの代謝の違い(おさらい)

Youngでは…静止期HSCが多く代謝活性も低い。解糖系主体。

Oldでは…増殖期HSCが(Youngと比較して)多く代謝活性が高い。酸化的リン酸化回路が主に回っている。

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次から本文の内容です。

 

  • 高齢マウス(20-22ヵ月齢)に8週間NRを投与する→若齢マウス(2-3ヵ月齢)にHSCやHSPC頻度が近づく。(総細胞数は若齢でも高齢でもNRを投与してもあまり変わらず)
  • 高齢マウスで見られるMyeloid bias(骨髄系血球に偏った造血)も弱まり、若齢マウスで見られる特徴に近づく。
  • NR投与によるNAD増加も確認された。
  • NR投与によって発現が変化する遺伝子と加齢によって発現が変化する遺伝子はかなりオーバーラップしている。
  • 高齢マウスでは通常ミトコンドリア代謝が上がっており、酸素消費速度が上昇している。
    →NR投与によって高齢HSCやHSPCのミトコンドリアの酸素消費速度が抑えられ、若齢マウスに近づく。
  • 高齢マウスにNRを投与すると、有意にheat shock protein発現が低下する。(若齢マウスではheat shock protein発現は少ない→これと同程度まで低下する。)
    ※heat shock proteinの発現が高い=酸化的リン酸化回路が活性化している、代謝活性が上がっているという意味。(NR投与によってこれが抑えられる。)
  • 高齢マウスでは若齢マウスよりミトコンドリアネットワークが活性化している。高齢マウスにNRを投与すると若齢マウスに近づき、ミトコンドリアネットワークは小さくなる。(Tom20を用いて実験)
  • NR投与を中止してしまうとこの効果は失われてしまう。
  • NR投与によって加齢マウスHSCでも機能は一部改善する。(移植後キメリズムが有意に高い。)
  • 高齢マウスHSCを移植してからNRを投与しても全く効果なし。
  • NR投与がHSC自身に作用しているのかニッチに作用しているのかは今回の実験では明らかではない。