こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

オートファジーについて

調べたこと、勉強したことのメモです。

 

オートファジー (Autophagy)は、2016年に日本人(大隅良典氏)がノーベル賞を受賞したことで注目を浴びました。

 

Auto=自分、phagy=食べる、で「自食作用」などとも呼ばれています。

 

もう少し簡単に言うと、細胞の中の要らなくなったタンパク質(人間も含めた動物は様々なタンパク質が相互に働きあうことで出来上がっています)を、自身の細胞内で分解し、新しいタンパク質合成に再利用するというしくみのことです。

 

オートファジーには3種類あります。

 

アブカムのホームページに詳しい解説が書かれています。

 

マクロオートファジー(Macroautophagy)

メインのオートファジーとされています。細胞質成分やオルガネラを包み込んだオートファゴソーム(autophagosome)と呼ばれる小胞が、リソソーム(lysosome)と融合してオートリソソーム(autolysosome)を形成し、包み込んだ内容物を分解します。

マイクロオートファジー(Microautophagy)

リソソーム膜が陥入して直接細胞質成分を取り込み、その内部で分解します。オルガネラ量の調節、膜の恒常性維持、窒素不足の状態での細胞の生存に重要であると考えられています(Li et al., 2012)。

シャペロン介在性オートファジー(CMA)

細胞質内のタンパク質とシャペロン・タンパク質との複合体をリソソーム膜上の受容体 LAMP-2A(lysosomal-associated membrane protein 2A)が認識してリソソーム内に直接取り込み、高次構造を解いて分解します。

出典:オートファジー概論 | アブカム

 

Q オートファジーアポトーシスの違いは?

A アポトーシスは常に細胞死につながるが、オートファジーは基本的細胞の生存に寄与する。しかし細胞死に寄与することもある。

 

Q オートファジーは疾患に関連している?

A している。多すぎても少なすぎても問題あり。

 

Levine B. Cell biology: autophagy and cancer. Nature. 2007 Apr 12;446(7137):745-7.

上この論文はQ&A形式でいろんな疑問に答えており、面白いですね。

 

オートファジーは、いろんな疾患との関与が明らかにされてきています。

  • 細胞に代謝ストレスがかかるとアポトーシスが誘導。これによって腫瘍形成抑止効果がある。
  • オートファジーは細胞における良質なタンパク質の維持に関与している。
  • オートファジーがあることによってアポトーシスしない腫瘍細胞の生存を助けてしまう。これによってがん化につながってしまう。
  • オートファジー阻害によってアポトーシスを促進し、がん治療に役立てることができるかもしれない。

Mathew R, Karantza-Wadsworth V, White E. Role of autophagy in cancer. Nat Rev Cancer. 2007 Dec;7(12):961-7.

  • 一方で、ベクリン1などのオートファジー特異的遺伝子の不活性化によってマウスの腫瘍形成の増加がもたらされ、そのような遺伝子(ベクリン1、atg5)の強制発現によってマウスモデルにおけるヒト乳房腫瘍の形成が阻害されるなど、腫瘍抑制経路として働く可能性も示唆されている。
  • この相反する2つの機能によってオートファジーは癌にプラスに働くのかマイナスに働くの議論を呼んでいる。

Levine B. Cell biology: autophagy and cancer. Nature. 2007 Apr 12;446(7137):745-7.

 

神経疾患との関与も明らかにされています。

Lynch-Day MA, Mao K, Wang K, Zhao M, Klionsky DJ. The role of autophagy in Parkinson's disease. Cold Spring Harb Perspect Med. 2012;2(4):a009357.

  • シャペロン介在性オートファジーを利用し、異常たんぱくを分解することによってハンチントン病モデルマウスの生存期間を延長できる。

Bauer PO, et al. Harnessing chaperone-mediated autophagy for the selective degradation of mutant huntingtin protein. Nat Biotechnol. 2010 Mar;28(3):256-63.

 

次に造血に関しても見てみます。

  • オートファジー遺伝子Atg7を条件付きでノックアウトしたマウスに脾腫を伴う進行性貧血とリンパ球減少症が起こる。
    →オートファジーは造血に必須であることが示唆された。
  • Atg7 KOマウスはなぜ死んでしまう?
    →Mortensenらの研究によると、マイトファジーが障害され、ミトコンドリア膜電位が上昇し、ミトコンドリアのROSやDNA損傷蓄積を増大させ、これによってHSC機能が低下し骨髄不全で死亡すると提唱している。
    (成人HSC維持におけるオートファジーの役割を示した最初の研究)

Mortensen M, Watson AS, Simon AK. Lack of autophagy in the hematopoietic system leads to loss of hematopoietic stem cell function and dysregulated myeloid proliferation. Autophagy. 2011 Sep;7(9):1069-70.

 

出典:MBLライフサイエンス

マイトファジーとは | MBLライフサイエンス

 今後もいろんな分野に研究が広がっていきそうです。