こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】造血幹細胞の分化における新しい知見

本日も文献紹介です。今回はレビューです。

 

Cheng H, Zheng Z, Cheng T.

New paradigms on hematopoietic stem cell differentiation.

Protein Cell. 2020;11(1):34-44.

 

Abstract

造血幹細胞(HSC)が50年前に最初に同定されてから、その分化の系図=ロードマップは精力的に研究されてきた。古典的には、HSCが階層的分化のトップにあり、自己複製能を有しながら、全ての系統の血球へ分化し産生を行っていると考えられてきた。しかし、この数年で単一細胞の研究技術が進み、この分化スキームには問題点もあることが分かってきた。このレビューでは、HSCと前駆細胞における不均一性を、エビデンスに基づきながら議論するとともに、主にマウスにおける新たな階層的分化モデルについて述べる。この新たな視点は、造血幹細胞とその複雑な分化過程をより深く理解する助けとなるであろう。

 

古典的かつバランスのとれた造血階層モデル

・造血幹細胞(HSC)の細胞性…致死量放射線照射後マウスに移植して造血システムを再構築できるか?→これが造血幹細胞機能評価のゴールドスタンダード。

・HSCの分離はフローサイトメトリー(FACS)によって可能に。

・HSC道程のために様々なマーカーが利用されている。

…CD34, Sca-1, c-Kit, the signaling lymphocyte activation molecule (SLAM) markersなどなど。

・HSCは ①自己複製能 ②多分化能 の2つを有していることが条件。

・これに対して前駆細胞は、自己複製能がなく限定された分化能しか有していない。

・Weissmanによって、HSCの階層的分化モデルが提唱された。

 ・HSCはCD34-(長期=LT-HSC)かCD34+(短期=ST-HSC)かで2群に分けられる。

 ・LT-HSCは移植後長期(3-4ヶ月)の再増殖能を有する。

 ・ST-HSCは短期(1ヶ月以下)の短期再増殖能を有する。

 ・LT-HSC→ST-HSC→MPP(自己複製能を持たない多能性前駆細胞)と分化していく。

  ※multipotent progenitors=MPPs

 ・MPPから骨髄球系前駆細胞CMPとリンパ球系前駆細胞CLPへ分化

 ※common myeloid progenitors=CMPs 

   →顆粒球マクロファージと巨核球赤血球前駆細胞の2つに文分化(分岐)

  common lymphoid progenitors=CLPs

   →T,B,NKリンパ球と樹状細胞へ分化

  granulocyte-macrophage=GMPs

 ・これら全てがツリー状の均整の取れた階層モデルを形成。

  成熟血球ができる。

図1

 

造血階層モデルにおける研究の進歩

 ・古典的モデルはHSCの分化プロセスの理解に非常に役立ったが、しかし実際の分化様式はもっと複雑。

・その後の研究で、骨髄球系分化に偏ったHSC、リンパ球系分化に偏ったHSC、平衡型HSCの存在すると定義された。

・また、LT-HSCとST-HSCの間に中間型(IT-HSC)が存在していることが報告された。

・またその後の研究によってHSC集団は不均一であることが示唆された。1つの細胞集団であっても分化様式にいくつかのパターンがある。また細胞表面マーカーによって、それらをある程度選別することができる。

例えば、CD150medHSCよりCD15hiHSCは骨髄球系により分化しやすい。

・中でも巨核球の期限は長年議論されてきた。

~巨核球の起源に関しては次回~