こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

公衆衛生レクチャーで学んだこと⑪~さまざまな臨床研究の際のTips~

公衆衛生に関するレクチャーを受けました。それで新たに学んだこと、よくわからなくて後で調べたことなどをメモ的に書いていきます。

 

一部は過去記事と重複。

teicoplanin.hatenablog.com

 

  • Cross-sectional study・・・横断研究と同じ。One pointのみの評価。Time dimention=時間の概念がない。安価で簡便なのが特徴だが、一方で急性疾患には向かない。選択バイアスあり。

    データ収集をたとえばメールなどで行う場合、そのテーマに興味がある人のみが返信するなどの現象がおきるため、selection biasに注意が必要。カルテ情報などが既に手元にある場合は、レスポンスがあった患者となかった患者の特徴を比較検討するなどといった方法もある。

  • Case control study・・・症例対照研究。Case(=疾患を持っている患者)とControle(=対照)を先に集め、risk factorやexposureがあるかを後方視的に解析する。アウトカムに関する患者をまず集めることになる。Selection biasやInformation biasあり。Relative risk=相対リスクやリスク比の計算はできず(しても意味がない)、オッズ比を計算することになる。稀な疾患の解析に適している。
    ※リスク比はサンプル数の影響を受けるが、オッズ比は受けない。
    Case control studyの1つの難しい点は、Control群をどこから抽出するかという点。適切なControl群を選ぶのが難しい。また、recall biasが問題となる。疾患群のほうがその疾患に関連する情報をより詳細に思い出そうとする。

    またCase control studyにもいくつかのタイプがある。

 

 【Case control studyの発展型

  • Cumulative case-control study 累積症例対照研究
    コホート研究の途中で新たな疑問が生じたときにしばしば行われる。ある研究機関が終わった段階で、興味のある疾患を発症している群と発症していない群で、その特徴を比較する。コホート研究は後ろ向きでも前向きでも、「暴露=exposure」の有無で患者を分けているのに対し、case-controlの場合は「疾患」の有無で分けているという違いがある。

  • リスクセット・サンプリング法
    研究期間中、ケースが発症した時点で、そのケース以外の対象患者の中から、年齢や性別などをマッチングさせた1~数人をコントロールとして無作為に抽出する方法。
    ※リスクセット・サンプリング法の例
    1. PPI長期服用で骨折リスクは上昇するか?
      Yang YX, Lewis JD, Epstein S.et.al.
      Long-term proton pump inhibitor therapy and risk of hip fracture.
      JAMA.2006;296(24):2947-53.
      A nested case-control study(ネステッド・ケースコントロール研究)
      コホート内症例対照研究
      大規模コホート研究に登録されている患者を使用。患者が骨折を発症した時点で同じくらいのPPI内服期間の患者をコントロールとして選び、マッチングさせる。
      参考:第11回 症例対照研究を活用した薬剤のリスクアセスメント【続編】
      PPIの長期服用で骨折リスクは上昇するか?

      https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/di/column/ebm/201505/542221_2.html

    2. 炎症マーカー値と男女別冠動脈疾患リスク
      Pai JK, et al. Inflammatory markers and the risk of coronary heart disease in men and women. N Engl J Med. 2004 Dec 16;351(25):2599-610.
      炎症マーカーのTNF-α、CRP、IL-6などが冠動脈疾患の予測因子となるかを検証。冠動脈疾患が発症した時点で、年齢・喫煙歴・採血日をマッチさせた患者をコントロールとして2:1でマッチングさせる。
      参考:NEJM日本国内版「炎症マーカーと男性および女性における冠動脈心疾患のリスク」

      https://www.nejm.jp/abstract/vol351.p2599

  • Cohort study
    研究開始時点では健康な患者を抽出。暴露=
    exposureがあるかないかで患者を沸け、その後に疾患が発症するかを見る。Recall biasなどを排除できる。研究によっては長い期間がかかる。前向きコホートと後ろ向きコホートでは、スタート時点が異なる。
    現在から未来へ・・・前向きコホート研究
    過去から現在(あるいは現在に近い過去)へ・・・後ろ向きコホート研究
    コホートの種類にもいくつかある。
    • Closed cohort:研究開始時にのみ患者をエントリーする形式。つまり途中で患者は減っていくのみ(死亡するなどで)。Fixed cohortと同じ意味で使われることもあるが、全患者を最後まで追跡できた場合をClosed cohort、途中で追跡できなくなってしまった患者が出てしまった(が途中からの新規患者エントリーはない)場合はをFixed cohortとして区別する場合もある。Closed cohortでのみcumulative incidence rateを計算できる。(FixedでもOpenでも計算できない。)
    • Open cohort:いつでも新規患者がエントリーできるようになっている形式。患者数は途中で減少も増加もし得る。

  • Randomized controlled trial
    前向きコホート研究と似ているが、最大の違いは「ランダム化」。介入群と対照群にランダムに割付け、治療などの効果を検証。未知の交絡因子も既知の交絡因子もどちらも排除することができる。

    ランダム化の方法にはいろいろある。(下記参照)
    ランダム化のほかにポイントとなるのは、盲検化、対照群の扱いなどである。
    対照群では偽薬を用いるのが理想だが必ずしも倫理的でない場合もある。また標準治療が対照となる場合もある。

単純ランダム化 (simple randomization)

サイコロをふる要領で患者を介入群とコントロール群に1/2(1:1に割り付けるとして)の確立でどちらかの群に割付ける方法である。現在ではコンピューターで乱数を発生させランダムに割り付ける方法が取られることが多い。単純ランダム化は症例数が少ないと集団の属性と人数に偏りが生じることがある。

ブロックランダム化 (block randomization)

単純ランダム化の割付の人数の偏りを解消する方法がブロックランダム化である。予め人数を決めたブロックをつくり、その中でランダムに割り付ける方法である。例えば、介入群をA、コントロール群をBとして、2名の患者をA,Bに割り付ける組み合わせはAA、AB、BA、BBの4通りである。単純ランダム化でAA、BBという割付をすると人数の偏りができてしまうので、ブロックランダム化ではAB、BAブロックに患者を割り付けて行くことで人数の偏りが解消される。つまりブロックランダム化の利点は2群間の参加者数をほぼ同数にできることである。一方で欠点は何かの表紙に最初の割付がわかってしまった場合に、自動的に次の割付もわかってしまう点である。この欠点を解消するために、同じブロックサイズを使い続けるのではなく、ブロックサイズを大きくするか、ブロックサイズを2と4からランダムに選ぶ方法か複数のブロックサイズをとりまぜて使用する方法がとられる。

層別ランダム化 (stratified randomization)

層別ランダム化とはランダム化前に予め性別や疾患の進行度など両群で違いを生じさせたくない因子ごとに患者をわけておき、ランダム割付を行う方法である。

適応的ランダム化 (adaptive randomization)

上記のランダム化割付途中に介入群とコントロール群の人数に大きく差ができてしまった場合に次の組入患者を少ない方の群に割り付ける方法。途中の割り付け結果に適応しながら次の割付をきめるため適応的ランダム化と言われる。

クラスターランダム化 (cluster randomization)

介入を行う単位が個人ではなく、集団を対象としている場合(教育効果、ワクチンなど)にグループや地域といった塊(クラスター)を一つの単位としてランダム化してく方法。

 

出典:亀田メディカルセンター亀田総合病院 集中治療科【亀田ICUでちょっとひといき】 「ランダム化」

http://www.kameda.com/pr/intensive_care_medicine/post_2.html