こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】造血におけるTCF15の役割

本日も文献紹介です。抄読会のメモ的な感じです。

 

Rodriguez-Fraticelli, A.E., Weinreb, C., Wang, S. et al.

Single-cell lineage tracing unveils a role for TCF15 in haematopoiesis.

Nature 583, 585–589 (2020).

 

<基礎知識>

Lineage trackingとは?


細胞をマーキングし、移植後にどのように分化していくかを追跡し、細胞運命決定の過程を見る方法。
cf. Yamamoto R, et al. Clonal analysis unveils self-renewing lineage-restricted progenitors generated directly from hematopoietic stem cells. Cell. 2013 Aug 29;154(5):1112-1126.

 

近年、細胞運命を追跡する新たな方法として、viral barcoding、これを応用したIntro scRNAseqという方法が出てきた。

 

★バーコードによる細胞運命追跡

CloneTracker™50Mレンチウイルスバーコードライブラリーには、異なるバーコード配列を持つ5,000万個以上のレンチウイルスコンストラクトが含まれており、細胞集団の個々のクローンのトラッキングを実現します。細胞集団がこのバーコードライブラリーで形質導入されると、バーコードは細胞のゲノムDNAに組み込まれ、ほぼすべての細胞がDNAシーケンス可能なバーコードを有することになります。バーコードは安定して組み込まれており、ゲノムDNAが複製されるときに子孫細胞に引き継がれます。実験中に細胞増殖を追跡することができので、下記の用途にご使用いただけます。

  • 薬物治療の過程で細胞クローンの運命を追跡する
  • 造血細胞に対する分化の影響を研究する
  • 移植腫瘍細胞集団に対する治療効果の評価

出典:コスモ・バイオ株式会社「CloneTracker™ レンチウイルスバーコードライブラリー」

CloneTracker™ レンチウイルスバーコードライブラリー | 数百万個の哺乳類細胞を個別バーコード標識! | コスモ・バイオ株式会社

しかしこのバーコードと単一細胞RNAシークエンシングを組み合わせた方法では、解析時点で細胞が破壊されてしまうので、子孫がどのように分化するかはわからない。
→これに対しCamargoらがLARRY (lineage and RNA recovery)という新たな方法を報告した。

Weinreb C, et al.

Lineage tracing on transcriptional landscapes links state to fate during differentiation.

Science. 2020 Feb 14;367(6479):eaaw3381.

レンチウイルスを用いバーコードをLT-HSCに入れ、それを2群に分け、すぐに解析する群、移植した後に解析する群を使い、細胞運命を決定する。

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<Main text>


・HSCにはHigh output(たくさん子孫を残す)とLow output(余り子孫残さない、自己複製中心)がある。
・HSCの30%程度はMk biasあり。
・Low output HSCとMk bias細胞は遺伝子発現様式などが近い。→著者らが過去に報告したNative HSC状態ではないか?
cf.Sun, J., Ramos, A., Chapman, B. et al. Clonal dynamics of native haematopoiesis. Nature 514, 322–327 (2014).
・2次移植の際に2nd recipient miceを2匹用意すると、両者で生着している細胞は相関。2nd recipientでは主にlow output由来の細胞が多く観察された。Long term potencyはLow out put HSCにより多く備わっている可能性がある。
・CRISPR Cas9を用い、いくつかのgeneをKOしてみる。これによってLT-HSCがLTでなくなるものがあるかを調査。影響が多い遺伝子として、Clec2d, Tcf15, Adam22などが同定された。
(Authorの1人はTcf15について論文を発表)→これもありTcf15に注目し精査。
・Tcf15を欠損させると、分化を進行させる効果がある。(HSCではなくなる)HSC marker geneが抑制され、細胞周期関連遺伝子発現が活性化される。
・Tcf15を欠損させると、CD150+細胞が減少し、移植しても生着率が下がってしまう。
→Tcf15はHSC維持と静止に関与していると考えられる。
・LT-HSCの中では38%程度しかTcf15陽性でなかった。