こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】Hox5bはLT-HSCのマーカーとなり得る

本日も文献紹介です。

 

Chen JY, Miyanishi M, Wang SK, et al.

Hoxb5 marks long-term haematopoietic stem cells and reveals a homogenous perivascular niche. 

Nature. 2016;530(7589):223‐227.

 

Abstract

造血幹細胞(HSC)は、間違いなく最も広範に特徴づけられた組織幹細胞である。その分離同定がなされて以来、マルチパラメーターフローサイトメトリーによる表現型サブセットの分離により、HSCの生物学に関して自己複製、分化、老化、ニッチ、多様性など多くの研究が進んだ。今回我々は、公平なマルチステップスクリーニングによって1つの遺伝子Hoxb5(ホメオノッスクB5:Hox-2.1としても知られる)を同定した。これはマウスにおいては骨髄の中で長期HSC(the long-term HSC (LT-HSC) )にしか発現していない。内因性Hoxb5制御によってもたらされる単色tri-mCherryレポーターマウスを用いることで、Hox5b陽性のHSCのみが、一次移植後も二次移植後も長期再増殖能を示すことが分かった。これまでに免疫表現型によって定義されたHSCのうち7-35%ほどしかLT-HSCはないことが分かった。マウス骨髄イメージングによってHox5b陽性細胞、つまりLT-HSCのうち94%以上が、VEカドヘリン陽性細胞に直接結合し、血管周囲スペースにほぼ均一に局在していることが分かった。

 

Main text

・HSCを前向きに同定するには、同定された細胞が自己複製能とともに一次移植後も二次移植後も全ての血球細胞に分化できるという長期の再増殖能を有していることを示す必要がある。→近年では細胞表面マーカーを蛍光標識することでHSCを分離同定している。

・しかしこれが本当にLT-HSCなのかは十分に明らかになっていなかった。

・我々はLT-HSCをより高い精度で同定するためにHSCが生体内で発現しており、さらにフローサイトメトリーによって同定可能な遺伝子を見つけるため、4段階のスクリーニングを行った。

  1. 造血システムの中の28の異なる細胞集団のマイクロアレイ遺伝子発現アッセイを比較。→118のHSC固有遺伝子候補を同定。
  2. 間質細胞や血管内皮細胞のように骨髄中細胞の中で造血幹細胞も標識してしまうものを除いた。→候補を45の遺伝子に絞った。
  3. 候補遺伝子発現が、生体内でもフローサイトメトリーでも観察できる(閾値を超えている)ことを確認。→Hoxb5, Rnf208, Smtnl1の3つのみがこれに該当。
  4. HSCでの発現の均一性をチェック。単一細胞qPCRを実施→Hox5bのみが残った。

Hox5bを同定し、レポーターとしてmCherryを組み込んだ。

 

→このHox5bの特異性を評価してみる。

12週レポーターマウスの全骨髄を取り出し、mCherryの発現具合を調査。

→pHSC細胞群で発現量が多かった。

次にHox5b発現細胞を移植してみる。

1.Hox5bが多い細胞群

2.Hox5bが少ない細胞群

3.Hox5bが含まれてない細胞群

上記3種類を放射線照射後マウスに移植。移植後16週間で末梢血解析したところ、

1.Hox5bが多い細胞群 78%

2.Hox5bが少ない細胞群 70%

3.Hox5bが含まれてない細胞群 44%

上記の割合で多系統再構築能を示した。二次移植でもやはりキメリズムは、1>2>3の順となった。→Hox5bはLT-HSCのマーカーである!

 

骨髄内のLT-HSC可視化は依然困難だが、Hoxb5 –tri -mCherryレポーターはこの問題を解決するかもしれない。

→これを用い、LT-HSCと血管系の関連を調査。

→LT-HSCニッチはほぼ均一に血管周囲に位置していることが分かった。このような3次元構造解析にも役立つかもしれない。