こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】がん抑制遺伝子p53の歴史と機能・血小板との関連

本日も文献紹介です。自分用の備忘録的な感じです。前回記事の続きです。

 

前回記事↓

PI3K経路に関する解説もこちら

【文献紹介】p53ノックアウトは血小板減少や機能低下につながる - こりんの基礎医学研究日記

 

Yang M, Liu Q, Niu T, et al.

Trp53 regulates platelets in bone marrow via the PI3K pathway.

Exp Ther Med. 2020;20(2):1253-1260.

 

 

Introduction

★p53について

・p53は1979年にシミアンウイルス40(SV40)の研究の過程で発見されたがん抑制遺伝子である。(同じ年にコード遺伝子が発見された。)

・その後の研究でp53は、腫瘍形成を阻害するがん抑制遺伝子であり、この発現によって、細胞周期停止やアポトーシスへ細胞を導くことが可能であることが分かった。

※補足:SV40とは…

DNAウイルスの1つ。自然界における宿主であるサルでは許容モードだが、非許容モード(本来の生活環では想定していない宿主へも感染するモード)では他の動物にも感染することがでる。このとき、SVウイルスはウイルス本来の役割である、宿主となる細胞に侵入し、新たなウイルスを作り、細胞を殺しウイルスを拡散する、という方法はとれない。代わりに侵入した細胞をがん細胞化し、発がんを促す。ウイルス侵入によって作られたT抗原がp53に結合し、機能を阻害することにより、感染細胞は制御を受けることなく増殖できるようになる。

参考:https://numon.pdbj.org/mom/47?l=ja

 

・p53は最も重要ながん抑制遺伝子の1つであり、疾患発症予防のみならず、細胞の成長・分化・加齢において重要な役割を担っている。→このため”Police Gene"とも呼ばれる。

・この機能欠損は発がんに関与する。血液がん・固形がんを含め50%以上もの悪性腫瘍でこの変異が見られる。

 

★血小板の機能について

・骨髄巨核球の細胞質が分裂して生じる血球成分。巨核球は多能性造血幹細胞から直接分化し、成熟巨核球となる。

・血小板の主な機能は、血液凝固、止血、損傷した血管の修復などである。

・血管内皮細胞を修復・保全することによって動脈硬化を予防する。

 

★p53と血液疾患について

・p53はその役割から重要な予後因子と考えられてきた。

・これまでの研究ではp53は巨核球の分化・アポトーシスに重要な役割を果たしてきたとされている。

・p53ノックダウンによって巨核球の倍数性が増加する。

・今回の文献を通し、血小板とp53の関係性を明らかにする。

Result

・Genotypingによって同定されたp53+/+マウスとp53-/-マウスの血球成分の数を比較。

・p53-/-マウスで有意に白血球数が少ない。赤血球、ヘモグロビンなどには有意差なし。

・p53-/-マウスで有意に血小板数、血小板におけるヘマトクリットの低下が見られる。また出血時間も有意に延長。

・PI3Kシグナル伝達はp53-/-マウスにおいて変化が見らた。PI3Kシグナルは、p53と血小板関連因子をつなぐ架け橋である可能性がある。p53-/-マウスの骨髄で、PI3Kシグナル伝達に関与するmRNAの発現増加や低下が見られた。

・PI3K阻害薬によってp53-/-マウスのマイナス効果を打ち消すことが可能。1日1回のPI3K阻害薬投与で血小板数は回復した。

 

Discussion

・巨核球ではp53発現高いことが分かっている。また巨核球とマクロファージ分化を調整していることが分かっている。(特に巨核球の増加とアポトーシスに関与)

・今回の研究でp53-/-マウスで血小板の数、および機能が低下することが分かった。

・PI3K関連遺伝子であるAkt1、Pdpk1、Pdk2の発現はp53-/-マウスにて増加した。

・PI3K阻害薬をp53-/-マウスに投与すると、Akt1、Pdpk1、Pdk2の発現は減少し、血小板数は増加することが分かった。→これは、p53とPI3Kの両方が血小板形成に関与していると考えられる。

・p53欠損が巨核球異常や血小板の数・機能の低下につながっているのでは?

・さらなるメカニズム解明が必要。