こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】p53ノックアウトは血小板減少や機能低下につながる

本日も文献紹介です。自分用の備忘録的な感じです。

 

Yang M, Liu Q, Niu T, et al.

Trp53 regulates platelets in bone marrow via the PI3K pathway.

Exp Ther Med. 2020;20(2):1253-1260.

 

Abstract

p53遺伝子はよく知られたががん抑制遺伝子である。これは、造血幹細胞の分化・成長にも必須である。現在の研究では、p53ノックアウトマウス(p53-/- mice)における血小板の変化が報告されている。p53-/-マウスと同じ週齢のp53+/+マウスにおける末梢血と血小板を比較すると、p53-/-で血小板数は大幅に少なく、出血時間の大幅な延長も見られた。さらに、p53-/-マウス骨髄におけるPI3Kシグナル伝達経路関連遺伝子の発現は、血小板造血に関与していることが分かった。p53-/-マウスをPI3K阻害薬で治療すること、これらの血小板の変化を元に戻すことが可能であることを確認した。つまり、p53-/-マウスにおいて血小板は野生型マウスと比較し変化が見られており、これにはPI3Kシグナル伝達経路が関与していると考えられる。これはすなわち、p53依存性PI3Kシグナル伝達経路が、血小板現象や血小板疾患発症に関与している可能性もあると考えられる。p53欠損マウスにおいて血小板数は減少が見られるが、PI3K経路阻害によって治療が可能である。

 

【基礎知識】PI3経路とは

PI3K=ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ

ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)は、細胞膜の構成要素でホスホイノシチドの代謝前駆体であるホスファチジルイノシトールの3’-水酸基をリン酸化するシグナル伝達タンパク質で、広範な細胞活性を調節することによって細胞生存および細胞死を制御する生物活性脂質分子です(図3.2)*5,6 。PI3Kは、細胞機能の制御において幅広い役割を持つ他、リンパ球の活性化およびシグナル伝達に関与しています*7,8 
PI3Kは、サイトカイン、インテグリン、B細胞受容体(BCR)活性化、あるいはGタンパク質共役受容体(GPCR)リガンドなどの複数の上流シグナルを介して活性化されます。PI3Kがリガンドに結合すると、受容体チロシンキナーゼ(RTK)-および(GPCR)-誘導性のPI3K活性化が細胞膜で生じます。活性化されたPI3Kは、ホスファチジルイノシトール-4,5- 二リン酸(PtdIns[4,5]P2、またはPIP2)をリン酸化し、ホスファチジルイノシトール- 3,4,5-三リン酸(PtdIns[3,4,5]P3、またはPIP3)を産生させます。続いて、PIP3の蓄積、ならびにAktおよび3-ホスホイノシチド依存性プロテインキナーゼ1(PDK1)などのプレクストリン相同(PH)ドメインを持つタンパク質の動員がシグナル伝達カスケードを誘発し、細胞成長および生存ならびにカルシウム動員、細胞運動性、小胞輸送および細胞増殖、アポトーシス、および他の機能を含む多くのその他の重要な細胞機能に影響を及ぼします(図3.3)*9

出典:【いまさら聞けないがんの基礎 8】PI3K/Akt/mTORシグナル伝達経路とは?

https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/cancer8/#3-PI3K

 

PI3キナーゼPhosphoinositide 3-kinase, PI3K、EC 2.7.1.137)は、イノシトールリン脂質イノシトール環3位のヒドロキシル基(-OH基)のリン酸化を行う酵素である[1]イノシトールリン脂質は真核生物細胞膜を構成する成分の一つであり、PI3Kをはじめとしたキナーゼ(リン酸化酵素)の触媒作用を受けてホスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸 PtdIns(3,4,5)P3となり、プロテインキナーゼB(PKB)/Aktを活性化する。このシグナル伝達経路はPI3キナーゼ-Akt経路と呼ばれ、様々な生理作用の発現に関与する。特にインスリンの分泌促進に深く関与することから[2]、新たな糖尿病薬の開発が示唆されている[3]

出典:Wikipedia