こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

iPS細胞とテラトーマ

自分用の備忘録的な記事です。

 

<基礎知識(用語解説)>

iPS細胞
人工多能性幹細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cell)のこと。 体細胞に特定因子(初期化因子)を導入することにより樹立される、ES細胞に類似した多能性幹細胞。山中教授グループの研究により、世界で初めて2006年にマウス体細胞を、2007年にヒト体細胞を用いて樹立に成功したと報告された。

 

テラトーマ (奇形腫)
ES細胞iPS細胞を免疫不全マウスの皮下などに注射すると、腫瘍を形成する。この腫瘍はテラトーマと呼ばれ、様々な種類の組織が混在している。テラトーマを観察し、様々な組織に分化していることを確認することは、細胞の分化多能性を調べる一般的な方法の一つである。

 

出典:京都大学iPS細胞研究所 CiRA
https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/faq/glossary.html

 

新たに樹立されたiPS細胞の多能性を、テラトーマ形成試験を通して評価することがある。つまりiPS細胞の機能評価の指標としてテラトーマ形成能は重要であるが、逆にこれが臨床応用においてネックになってしまう可能性もはらんでいる。

 

iPS細胞を用いた再生医療において、移植した細胞に含まれる未分化な細胞を起源とする腫瘍(テラトーマ)ができてしまう点が安全上の課題となってしまうのである。

 

この点に関して、日本人らの論文よりテラトーマ形成を阻止できる可能性があることが報告された。

 

今回、自治医科大学・幹細胞制御研究部の大学院生(当時)長田直希氏、菊池次郎准教授・古川雄祐教授らは、再生医学研究部の花園豊教授、理化学研究所梅原崇史ユニットリーダー、ジーントライ社林仲信博士らとの共同研究により、テラトーマが形成されるメカニズムを解明、低分子阻害剤の投与によってテラトーマ形成を抑制する方法を明らかにしました。

長田氏らは、iPS細胞から形成したテラトーマとiPS細胞との間で、エピゲノム制御に関わる分子の発現を網羅的に解析、テラトーマ形成に伴いリジン特異的脱メチル化酵素(LSD1)が強発現することを発見しました。そこで、iPS細胞を移植したマウスに梅原博士らの開発したLSD1阻害剤を投与の結果、テラトーマ形成を抑制できることを示しました。

これまでiPS細胞からのテラトーマ形成メカニズムは未解明であり、移植後の予防方法も未確立でした。本研究により、移植後にLSD1阻害剤を服用することでテラトーマ形成が予防でき、再生医療の安全性向上が期待されます。本研究は、筋ジストロフィーなど再生医療の実用化を待つ難治性疾患の患者にとって大きな福音となるものです。今後、本学臨床研究支援センターとも協力し、LSD1阻害剤の臨床応用を進める計画です。

 

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「研究成果について」

最初に、ヒトiPS細胞を移植した免疫不全マウスで形成したテラトーマとiPS細胞、正常細胞との間で、エピゲノム制御分子の発現を網羅的に解析しました。その結果、HDACファミリーのHDAC1、HDAC3、HDAC6及びヒストン脱メチル化酵素(LSD1)が、正常細胞やiPS細胞で発現が低く、テラトーマで強発現することが明らかになりました。そこで、すでに抗がん剤として臨床応用されているHDAC阻害剤やHDACの発現低下作用のあるプロテアソーム阻害剤を試してみました。しかしながら、これらの阻害剤にはテラトーマ形成抑制効果は見られませんでした。続いて、LSD1について、テラトーマ形成時の発現様式やその下流の分子、過剰発現とノックダウンのテラトーマ形成への作用を解析しました。すると、LSD1はin vitroでも分化直後から発現が亢進、移植後も恒常的に発現が亢進していること、下流でc-mycの強発現を誘導することが明らかになりました。また、LSD1遺
伝子の過剰発現にはテラトーマ形成の促進作用が、ノックダウンには抑制作用が見られました。これらの結果からLSD1阻害剤のテラトーマ形成抑制効果が示唆されました。そこで、LSD1阻害剤のリード化合物を保有する理化学研究所梅原博士に特異性と阻害活性の高いLSD1阻害剤の創出を依頼、2種類の新規阻害剤(特許出願済み)の提供を受けました。これらの阻害剤をiPS細胞を移植したマウスに投与の結果、テラトーマ形成を有意に抑制できました。

 

出典:自治医科大学医学部「iPS細胞のテラトーマ形成を抑える方法を発見」

https://www.jichi.ac.jp/news/research/2017/20180115.html

 

参考:

Osada N, Kikuchi J, Umehara T, et al.

Lysine-specific demethylase 1 inhibitors prevent teratoma development from human induced pluripotent stem cells.

Oncotarget. 2018;9(5):6450-6462. Published 2018 Jan 8.