こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】造血幹細胞の代謝の可塑性

少しブログ投稿の日数が空いてしまいました。

 

昨日はミニ・シンポジウムがあったのですが、そこで取り上げられていた内容に関する文献の紹介です。

 

514 (1), 287-294

 

ATP Turnover and Glucose Dependency in Hematopoietic Stem/Progenitor Cells Are Increased by Proliferation and Differentiation

 

Abstract

造血幹細胞HSCは骨髄ニッチの中に静止期で存在しており、グルコース依存的ななATP産生に比較的頼っている。一方で、造血前駆細胞HPCなどの分化細胞は、主に酸化的リン酸化回路を介したATP産生に依存している。しかしながら、細胞分化と細胞周期の状態がどのように栄養状態やHSCやHPCのATP産生に影響を与えているかは明らかでない。我々は新たに開発した培養システムを用い、HSCの生存はグルコースに強く依存していること、一方で静止期HSCはある一定期間グルコースを必要とすることなく生存することが可能であることを示す。また、HPCの中でもgranulocyte/monocyte progenitors (GMPs)は、その増殖において特にグルコース依存的である行きたい細胞内でのATP濃度をモニタリングすることによって、我々は、HSC内でも短期間であればグルコースがなくてもATPレベルを維持することを実証した。これはおそらく代謝の可塑性を実現するためと考えられる。さらにHSCはATP回転率が低いのに対し、GMPは高いATP回転率を示し、グルコースによる効率的ATP産生をより必要としていることが分かった。これらの所見は、ATP回転率と栄養要件は、細胞周期と分化状態に応じ、HSCとHPC間で異なることを示している。

 

内容まとめ

※一部セミナーでの講義内容も含む。

・HSCはミトコンドリア代謝活性を抑制→代わりに解糖系優位
・しかしストレス環境下ではこの状況は変化する 移植・感染・出血など →代謝には可塑性あり
・低酸素やアミノ酸など外環境の変化にともなって内環境(細胞分裂周期など)が変化する

・HSCは生存・維持は時と場合によってグルコース依存的。
→静止条件下(低サイトカイン状態=Steady state)ではグルコース非依存的に生存可能。

・静止期HSCはATP消費が少ない。

・HPCの生存は全てのサイトカイン濃度(低サイトカイン状態=Steady stateでも高サイトカイン状態=炎症状態)でもその生存はグルコース依存的。

・特にGMPなど分化したHSCでATP産生が高かった。(分化細胞においては解糖によるATP産生が増加すると過去の報告にあり。)

 

造血幹細胞の代謝様式は固定したものではなく、細胞周期や文化段階によって変化するものである。

 

図4

 

 

今回は以上です。