こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】造血幹細胞活性を維持するテロメア結合蛋白Pot1

本日は、先日講義で紹介された論文の紹介です。

 

------------------------------------------

The telomere binding protein Pot1 maintains haematopoietic stem cell activity with age

 

Abstract

繰り返しの細胞分裂と廊下によって造血幹細胞(HSC)機能は損なわれていく。しかし、このメカニズムは明確には解明されていない。今回、我々は、テロメアを保護するShelterin複合体の構成要素であるprotection of telomeres 1A (Pot1a)が、加齢中のHSC活性を改善しているということを示したい。Pot1は若齢のHSCでは多く発現しているが、加齢に伴い減少していく。マウスのHSCにおいて、Pot1をノックダウンするとDNAダメージ応答(DDR)が増加し、自己複製を阻害することが分かった。逆に、Pot1の過剰発現や細胞のPot1処理は、ex vivo培養における細胞ダメージ応答を減少させ、自己複製を維持し、老化したHSCをよみがえらせる。さらにHSCを外因性Pot1で処理すると、活性酸素産生を防ぎ、HSC維持においてテロメアの役割と直接関連しない作用を有することを示唆している。また同様に外因性ヒトPOT1タンパクがヒトHSC活性をex vivo培養において維持することが分かった。まとめると、これらの結果はPot1a/POT1はHSC活性を維持し、ex vivoにおけるHSC増殖に利用することができるのである。

 

※ヒトではPOT1、マウスではPot1a, bがある。 

Result & Discussionまとめ

・Pot1aはLT-HSCに多く発現しており、若齢マウスに多く発現しており、週齢が進むにつれ発現量は低下する。

・Pot1aをノックダウンすると、colony forming units in culture (CFU-Cs) および high-proliferative potential colony forming cells (HPP-CFCs)が減少。骨髄移植後の生着率も低下。→in vitroでのHSC活性を低下させる。

・Pot1a欠損によって、骨髄球系への分化傾向を促進させる。

・遺伝子解析→Pot1aノックダウンによって老化・アポトーシス・分化に関連する遺伝子発現をアップレギュレートし、HSC維持に必要な遺伝子をダウンレギュレーとする。

→Pot1aはin vitroでもin vivoでもLT-HSCの増殖・分化・維持に重要。

・Pot1aを過剰発現させると…

 ・CFU-Cs、HPP-CFCs増加

 ・Pot1a過剰発現LSK細胞移植

  →生着率促進

 ・長期再構成能促進

 ・連続移植によって末梢血、骨髄における
  LT-HSC率の大幅な増加

・Pot1aノックダウンによりTelomere dysfunction-induced foci (TIFs)増加、逆に過剰発現により有意に減少した。

・Pot1過剰発現によって活性酸素産生が大幅に減少。(活性酸素によって誘発される酸化ストレスはDNA損傷を誘発させる。)

・Pot1過剰発現HSCと外因性POT1aタンパク質の作用は同じ?

→外因性POT1aでHSCを処置してみる→HSC内に取り込まれ、過剰発現と同様濃厚化を得られた。(Pot1aノックダウンマウスのLT-HSCアポトーシスを防ぐことが可能)

・外因性Pot1aによって移植後生着率アップ。また分化能にも影響あたえず。

・外因性Pot1aによって培養液中のHSCの自己複製活性アップ。

・高齢マウスのHSCを外因性Pot1aで処理すると生着能アップ。またDNA複製に関する遺伝子が抑制され、ROS産生も減少。

・外因性ヒトPOT1がHSC活性に与える影響は?

・臍帯血中のLT-HSCはCD34+ HSPCよりも有意にに高いレベルのPOT1発現あり。

・POT1処理によって

 ・CFU-CおよびHPP-CFC増加

 ・総DNAダメージ応答、テロメアDNAダメージ応答
  いずれも大きく減少。

 ・培養液中にLT-HSC増加。また機能も4.5倍に。

 

・Pot1aは、長期のin vitro培養において、あるいは移植において重要な役割を担っていることが分かった。

ATR依存性テロメアDNA損傷をPot1aは阻害、これによりHSC活性を調整し、アポトーシスから細胞を保護している。

・ROSの減少という非テロメアの役割も発見。

・Pot1aは加齢中に失われ、これがDNA損傷蓄積、代謝変化、ROS産生増加をもたらし、老化したHSC機能を損なう。

・しかし上記は可逆的であり、組み換えPOT1aで高齢HSCを処理すると、再活性化できることが分かった。この機能的改善が起こるメカニズムはまだ正確には分からず。

・マウスで観察された上記Pot1aの効果はヒトHSCでも応用可能。→ヒトHSCのex vivo培養・増殖に役立つであろう。

 

今回は以上です。