以前の抄読会で扱った文献の紹介です。
Letter Published: 04 September 2019
Asymmetric lysosome inheritance predicts activation of haematopoietic stem cells
Dirk Loeffler, et al.
Nature volume 573, pages426–429(2019)
1.文献紹介の前に≪背景≫
造血幹細胞(HSC)は非対象分裂するであろうことが分かっている。
例えば1つのHSCから分裂した2つの細胞を別々に移植すると、片方は他系統に分化するにも関わらず、片方は1系統にのみ分化するといった現象がこれまでも観察されてきた。
また、タンパク質NUMBなどは非対象分裂の際に、2つの娘細胞に異なる配分で分配されることなどが分かっており、非対象分裂に関与するとされてきた。
しかし、何が非対象分裂になるかそうでないかを決定しているか分からない。
→今回の文献では、リソソームが非対象分裂に関与しており、細胞運命を決定しているのではないかということを、ライブイメージング等を用いて提示する。
2.文献について
- 13種類のタンパク質に傾向を付加し、in vitroで分裂の様子をlive videoで観察
→CD63–VenusとmCherry–NUMBでのみ非対称性を確認。(NUMB–Venusでは確認できず) - 非対象分裂のマーカーを探すためにSCA1, CD105, CD41, CD48, CD71が、対称分裂・非対象分裂時にどのように分配されるかvideoを用いてモニタリング
→CD105以外は分配率によってsymmetric, weakly asymmetric, asymmetricの3分類が可能。 - 非対象分裂時の、mCherry–NUMBの分配と、SCA1, CD105, CD41, CD48, CD71それぞれの分配が相関しているかを確認
↓
◆SCA1はmCherry–NUMBが非対称に分配されているときも対象に分配されているものが多い。
◆他のものは非対象に分配:CD71, 105, 48はmCherry–NUMBと逆相関。つまりmCherry–NUMBが多い細胞では少なかった。 - CD71の増減とGFP–MYC, TMRM(この2つはミトコンドリアの活性を示すマーカー), 活性酸素の増減はよく相関している→D71細胞では代謝が高まっていると考えられる。
- NUMB, CD63(最初の実験で非対称性が確認された2種)はどちらも、リソソームに関与しているということが報告されている
→リソソーム分配が非対象分裂に関与しているかもしれないと筆者らは考えた。 - 非対象分裂の際に、リソソームの分配とCD71の分配が相関しているか確認→逆相関関係に!
※ただしこれは分裂早期のみ。分裂から時間が経つと、リソソーム量(今回の実験ではLysoBriteで検出)は2つの娘細胞間で差がなくなってしまう - リソソームが多い方でマイトファゴソームのマーカーが多い→マイトファゴソームが多く起きているのかも?
※マイトファジー:損傷がおきたミトコンドリアをオートファジーを利用して分解・除去し、細胞を健康に保つための方法。 - リソソームの非対称分配は、その後の非対称分化を予測することが分かった。
- リソソームが低いHSC娘細胞では、特定の系統選択は行われずに分化する。
3.まとめ Conclusion
リソソーム、オートファゴソーム、マイトファゴソーム、NOTCH1、CD63、NUMBがHSC娘細胞に非対象に継承され、その後の分化も長期的に予想できる。
※NOTCH1に関しては本ページでは触れず。
今回は以上です。