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【文献紹介】Periostin/Integrin-αv Axisによる胎児肝に置ける造血幹細胞プールサイズ調節〜その1〜 - こりんの基礎医学研究日記
Biswas A, Roy IM, Babu PC, et al.
The Periostin/Integrin-αv Axis Regulates the Size of Hematopoietic Stem Cell Pool in the Fetal Liver.
Stem Cell Reports. 2020;S2213-6711(20)30243-5.
<基礎知識> 参考:Wikipedia
★インテグリンとは?
細胞表面にあるたんぱく質であり、細胞接着分子である。α鎖とβ鎖の2つのサブユニットから成っている。αとβには様々な種類があり、この2つ組み合わせによって様々なインテグリンが存在する。αとβの種類によってインテグリンα1β1などと表記される。ヒトには24種類のインテグリンがある。
★インテグリンαVβ3(ビトロネクチンレセプター)
インテグリンの中でもRGD配列認識インテグリンに分類される(結合するリガンドによって、このほかにもラミニン結合インテグリン、コラーゲン結合インテグリンなどが存在している)。血管内皮細胞、破骨細胞、腫瘍細胞に多く発現している。血管新生などに関与している可能性があると考えられている。
細胞接着因子であるインテグリン αvβ3 は、がんの増殖、血管新生や浸潤に関与すると考えられており、そのリガンドである RGD 配列を持つペプチドは、がんの治療薬や診断薬として有効であると期待されている。
例えば、RGD 配列を持つシレンジタイドは、インテグリン分子に対する分子標的薬であり、悪性グリオーマに対して有効に働くことが大
きく期待されている。出典:「がん診断・治療薬の開発を目的としたインテグリン αvβ3に対する
新規リガンドの合成 」http://www.med.ufukui.ac.jp/LIFE/seimei/research/H25_seikahoukokusyo/makino.pdf
※インテグリンαVβ3の遺伝子…ITGAVとITGB3
★ペリオスチン(Postn)
インテグリン αvとの相互作用を通じてぺリオスチンがHSC増殖調節を担っている。
Result
・ITGAVとITGB3の発現は胎児肝HSCで低く、成人HSCでは高い。
・胎児肝由来lin-c-kit+Sca-1+(KSL≒HSC集団)をCD150とCD48の陽性/陰性によって4グループに分け、ITGAVとITGB3の発現を確認。
・最も原始的なHSC=P1でItgav発現多い。
・ItgavはITGB3と連携し多くのがん細胞で発現。ITGB3のほうは?
→P1,P2に有意に高い発現あり。
・胎児肝では成人BM由来細胞と比較してItgavとItgb3の転写レベルが低いにもかかわらず、実際には細胞表面に多く発現している。
・造血系のItgavをノックアウトしたマウスを作製。このマウスにおけるHSPC(造血前駆細胞)、KSL細胞(≒HSC集団)、原始HSC(上記のP1に相当)の頻度はどうなるか?
→KSLと原始HSCは頻度が増加(割合が増加)。細胞周期S期やG2/M期の細胞割合の増加も確認。
→→→ItgavノックアウトによってHSCの増殖につながっている可能性がある。
・一方でItgavノックアウトはホーミングに影響を与えず。
・HSC頻度が増加することが分かったがその機能はどうか?
→①Vav-Itgav + / + (WT) ②Vav-Itgav +/− (HT) ③Vavの-Itgav - / - (cKO)
各マウスからの競合移植を実施。
1.各マウスからのドナー細胞10,000個+競合細胞90,000個
4,8,12週でcKOで有意に良好なキメリズム
2.各マウスからのドナー細胞100個+競合細胞100,000個
12週では有意にcKOで高いキメリズム・・・しかし2次移植後はcKOで有意に低い
キメリズム
→Itgavノックアウトで増殖したHSCの長期生着率は低い可能性がある。
・胎児HSCは移植後に生着し数週間程度で成人表現型に移行→こうなるとItgav欠損の影響はマスクされる。今度はpostn-/-胎児肝細胞を用いて、POSTN-ITGAV相互作用の喪失がHSC機能に及ぼす影響を調べた。
→KSL細胞群と原始HSC細胞群はpostnノックアウトによって頻度増加。
→移植するとワイルドタイプがドナーの場合と比較してPostnノックアウトの方がキメリズム高い。→これはHSCやHSPCの頻度増加によるものの可能性がある。
・HSC増殖とDNA損傷・修復の関連について。
・成人BMと胎児肝由来KSL細胞を並べ替え無血清培地で培養。
→胎児肝由来KSLでより増殖率が高い。またDNA1本鎖・2本鎖切断も増加。
→DNA修復経路であるDDR経路に関与する遺伝子のアップレギュレーションあり。
→FL由来KSL細胞の増殖に伴って成人BMよりDDRアクティビティレベルが増加。
→胎児肝HSCの方が増殖ストレスに強いかもしれない。
・胎生期に関しては、増殖ストレスはDDR増加によって緩和されている。
・イメージングの結果、Postnはニッチの重要な構成要素であることが分かった。