こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【若手医師向け】はじめてのCase Report投稿(投稿先などなど)

前書いた症例報告に関する記事が評判が良いようなので、関連記事を書いてみます。

 

私は今年で医師7年目、現在大学院で基礎研究中ですが、その前は総合診療をやっておりました。英文Case reportをこれまで5本書いてきました(うち1本はaccept済みかつ今年夏ごろpublish予定)。

なので、同じような(自分よりちょっと下の)世代である初期・後期研修医や若い総合診療や総合内科の医師が英文Case reportを書くことを想定してその流れなどを紹介してみます。

 

※20.8.17加筆修正

 

  

だいたいの流れ

  1. 症例を決める。
    …珍しい症例、面白い症例のほか、自分にとって印象深かった症例など。
  2. とりあえず書き始めてみる。
    …最初に目標の投稿雑誌を決める場合ももちろんありますが(だいたい語数制限があるので、それに沿って書き始める)、最初から規定語数内に収めるのは結構大変な気がするので、とりあえず書き始めてみるのが重要な気がします。
  3. まず"Case Report"セクションを。
    …雑誌によって微妙な違いはありますが、だいたい「症例紹介」→「考察(Discussion)」なので症例紹介部分を書きます。
  4. 次に”Discussion”セッションを。
    …これは適宜上司や先輩などと相談しながらが良いと思います。誰も周りにいない場合は、過去に報告されている同じようなCase reportの考察を参考にしてみる。
  5. カバーレターを書く。
    …英文校正業者によってはカバーレターを作成してくれるところもあります。私は自分で書くことが多いです。
  6. 投稿雑誌を決める。→それに合わせて語数やフォーマットを整える。
    …フォーマット調整は業者に依頼しても可(というかその方が効率的)。
  7. 英文校正
    …いつも私は業者(Editage)に依頼しています。
  8. 原稿本文とカバーレター以外に必要な文書を用意する。
    …本文とカバーレターはだいたいどの雑誌でもかならず必要です。あと、提出が必要なものの例としては、患者同意書、COI提示文書、英文校正証明書などです。
  9. 投稿する。
    …インターネットを通して投稿する。
  10. Editorからの返事を待つ。何パターンかあります。
    ○Editorial reject: 査読に回されず編集部判断で即Reject。早いと1-2日で返答。しかし多くは数日から1週間以内くらいでしょうか。つまり1-2週間くらい返事が来なかったらここはクリアしたと考えられます。(査読に回っています。)
    ~以下の査読には数週間から数か月かかります~
    ※先輩の話では、3か月音沙汰なかったら「どうなってますか?」的なメールを編集部に送っていいとのこと。
    Reject: 査読者の判断での不採用。どのような点が不足しているか、なぜ不採用なのか、コメントがもらえる場合があるので、それを参考に必要に応じ修正し、別の雑誌へ!
    ○Revision: あくまで個人的見解ですが、Rivisionまで行ければほぼ勝ちです!
  11. Revision
    …Rivisionの程度によってMinor rivisionとMajor rivisionがあります。
    Minor rivision: 語句や言い回しの修正だけなどちょっとした修正。
    Major rivision:考察の方向性を変えたりなど大きな修正。
    基本的に(たとえ納得できない指摘でも)査読者の言うとおりに原稿を直します。査読者に言われたことを盛り込むために語数制限をオーバーしてしまっても許容してもらえる傾向にあります。また、たとえば「○○の検査の結果を盛り込むように」などと言われ、その検査をやっていなかったとします。このように指定の修正を盛り込めなかった場合も採用されることが多い気がします!私はこのような理由で査読者の言う修正を入れられなかったことが何度もありますが、採用されてきました。なので、Revisionまで行ければかなりAcceptの可能性は高いです。
  12. 修正した原稿も提出(必要に応じて修正原稿も英文校正へ)。一部この段階で提出を求められる書類がある場合もあるので、その際は提出。
  13. Accept!!
  14. 原稿の最終チェック
    …Medical edotorとやる取りをするなどして現行の最終チェックをします。またPublication feeを払ったりします。
  15. Publish!!

論文投稿Q&A

★症例はすごく珍しいのでなければいけない?そんな症例診たことない?

みんながびっくりするような珍しい症例でなくともストーリー構成がしっかりしており、Take Home Messageがちゃんとあれば十分論文にはなります。上司や先輩に「この症例じゃ厳しいよ」とか言われてもあきらめてはいけません(笑)。

 

以前、胃がんの脊椎転移症例をCase Reportとして発表しました。

teicoplanin.hatenablog.com

 

悪性腫瘍骨転移はさほど珍しい症例ではないですが、アピールポイントを明確にし、分かりやすい構成を作ることでCase report専門誌に掲載されることとなりました。

今の私の上司は基礎医学が専門ですが、「論文は読み物だ」と言っております。小説や漫画のような読者を引き付けるようなストーリー展開を考えれば、ものすごく希少な題材でなくとも症例報告は成り立つ気がします。

 

また、ちょっと裏ワザ的手法としては、ある科の先生にとっては結構よく見る症例でも他の科の先生にとってはすごく珍しいといった場合もあります。複数の科が関与する症例であれば、より珍しさをアピールできる科の方のメインにして論文を書いたり、投稿する雑誌のメイン科を変えたりする方法もあります。

 

★英語が苦手?

私としては大した問題ではないように思います。紙の辞書しかないような時代は難しかったと思いますが、現在は無料翻訳ソフトや英文校正業者などもいるので、どうとでもなる気がします。

私がいつもやっている方法としては、

  1. 自分が書きたい症例報告に似た内容の症例報告を集める。
  2. そこにある表現や言い回しを組み合わせる。
  3. 無料スペルチェックGrammarlyを用いてスペルチェック。
    →Clinical Pictureなどの短い論文の場合はこのまま提出。
  4. 英文校正業者に提出。

です。

 

とにかく自分で考える英文ができるだけ少なくなるようにします。できるだけNative speakerが使っている表現を使うわけです。上記にあるGrammarlyのほか、英文表現検索サイトであるLudwigもよく利用しています。

 

ludwig.guru

 

少し極端ですが、Google翻訳で全部翻訳してあとは英文校正者まかせというのもありな気がします。また周囲におそらく1人くらいは帰国子女や留学生がいると思うので、そういう人たちに手伝ってもらうのでも良いかと思います。ただし、この場合、フォーマット調整はやってもらえません。投稿規定通りの書式に原稿を作るのは結構面倒なので、これをやってもらえるは業者に依頼する一番のメリットかもしれません。

 

★投稿先は?Case Report or Clinical Pictureについて

投稿先については既にいくつか記事を書いています。

自分が書いた症例報告のレビューと論文投稿に関するTips~前編・胃がん脊椎転移~ - こりんの基礎医学研究日記

自分が書いた症例報告のレビューと論文投稿に関するTips~後編・右房内血栓~ - こりんの基礎医学研究日記

 

症例報告を受け入れている雑誌は少なく、投稿先を見つけるだけでもまあまあ大変だと思います。

上記記事とも重なる内容ですが、今まで私が投稿したことある論文を中心に投稿できる雑誌をまとめます。

 

<症例報告>

・Internal Medicine 

 …語数制限がない、編集者・査読者すべて日本人であり初心者向け、accept率高い、IF 1程度と決して高くないもののIF付き。

・An International Journal of Medicine 

 …dicision非常に速い、一発acceptも多数、IF2点台とこの中では高い方。

・Oxford Medical Case Reports

 …accept率高い、IFなし。

BMJ Case Report

 …専用フォーマットがありとっつきやすい(ただし他の雑誌に投稿しなおすときに面倒)、accept率高い、IFなし。

・The America Journal of Medicine

 …IF4-5とこの中では最高。Images in Dermatology(Radiology)やDiagnostic DillemmaといったCase reportに相当する記事を投稿するコーナーがある。1500語と症例報告としては十分な語数。

 

上記の他にもCase Report専門誌はたくさんあります。

jmedicalcasereports.biomedcentral.com

Case Report専門誌でも全然いいとは思うのですが、その場合PubMedに収載されるか(日本語論文だったら医中誌に収載されるか)は要チェックだと思います。上記サイトでチェックできます。必ず収載される雑誌を選ぶべきだと思います。

 

<Clinical Picture>

・Internal Medicine 150語

・New England Journal of Medicine 150語

・An International Journal of Medicine (QJM) 500語

・Canadian Medical Association Journal  300語

・American Journal of Medicine 1500語

・Oxford Medical Case Reports 300語

 

Clinical Pictureは画像を中心とした短いCase report非常にとっつきやすく、むしろ症例報告を受け入れている雑誌よりPicture部門を持っている雑誌は多いのではとさえ思います。

 

カバーレターテンプレート

これは別記事を書きました。

teicoplanin.hatenablog.com