こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

救急外来におけるラクテート【文献紹介】

本日も文献紹介です。今月のAnnals of Emergency Medicineの記事です。

 

Demystifying Lactate in the Emergency Department=救急外来におけるラクテートの謎解き(?)という面白いタイトルでしたので、読んでみました。

 

救急外来でラクテートに助けられる場面は結構ある気がします。そのラクテートに関するレビューです。

 

読んでみた感想として、特別意外なことは多くはありませんでしたが、知識整理にはちょうど良かったです。直接関係ないですが、乳酸関連では慈恵ICUの乳酸に関する資料がよくまとまっていましたので、こちらも載せておきます。

 

こちらの慈恵の資料によると、長きに亘って悪者と思われてきた乳酸は、心臓や脳にとってもむしろ栄養源となり得る、といった研究が多く紹介されておりますが、救外というセッティングだからか、乳酸のプラスの影響について今回の文献ではあまり触れられていませんでした。

 

参考: 乳酸についてのオモシロ文献集

https://www.jikeimasuika.jp/icu_st/161108.pdf

 

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Demystifying Lactate in the Emergency Department

Gabriel Wardi, MD, MPH et al.
 
 
【Introduction】
・救急外来におけるラクテート(乳酸の共役塩基)はガイドにもなり混乱の元にもなり得る→正しい解釈が必要。
 
化学
・乳酸は、有機αヒドロキシ酸 CH3CH(OH)COOH
・水素イオン脱プロトン化して共役塩基のラクテートへ。生体内ではほぼラクテート(3000:1)。
 
ラクテートの生理的機能
糖新生の炭素基盤→血中グルコース維持
(乳酸、ピルビン酸、アミノ酸などから糖新生を経てD-グルコースが作られる)
②細胞呼吸が多いエリアでの参加的リン化を助けるの酸化剤となる。
代謝ストレス下の心臓や脳で取り込み・使用が増加する。
 
ラクテートの恒常性
・骨格筋の嫌気代謝の最終産物「酸素負債」。
・嫌気性環境下でグルコースからピルビン酸が作られ、そこからラクテートができ、その過程でATP産生が起こる。→代謝の過程でできるゴミ。
・近年では、好気性環境下でもエネルギー利用、酸化還元反応の鍵となる役割をしていることが分かっている。
・いくつかの研究では、骨格筋が完全に参加されており、嫌気性代謝の不要な安静時にラクテートが解糖により産生されていることをしj召している。
敗血症などのストレス環境下で見られるカテコラミン上昇を伴う炎症誘発サイトカイン環境でラクテート↑
グルコース利用↑→解糖・乳酸代謝に関するトランスポーター・酵素
・解糖↑→ピルビン酸↑→ラクテート↑
 
・平均的ターンオーバー率:20 mmol/kg per day
・70-75%は肝代謝、25-30%は腎代謝
・低酸素、アシドーシス、肝硬変などの理由で肝クリアランス↓
 
乳酸の分類
乳酸アシドーシス pH7.35以下になる乳酸上昇
ラクテート血症にはいくつかの定義あり
→多くはpHに関わらずラクテート2 mmol/L以上
・Cohen and Wood分類
A型: 細胞性低酸素あり…ショック、低酸素、重度の貧血、低酸素血症、局所組織潅流低下
B型: 細胞性低酸素なし…薬物療法(例、アルブテロール、エピネフリン)または基礎疾患の状態(例、敗血症、悪性腫瘍、末期肝疾患、糖尿病性ケトアシドーシス
 
【検査】
・採血から検査が遅れるとラクテートが上昇してしまう→15分以内に!
・動脈駆血ではラクテート上昇の文献有→75分間の動脈駆血後、ベースライン値の最大206%まで直線的にラクテート上昇。
・静脈駆血帯はそれほど変わらず。
動脈\静脈のでのラクテート値の違いは?
→正常ではほぼ一致、高ラクテート血症時はわずかにずれが生じるが多くは静脈血で代用可(このときはトレンドを見るのが大事)
・乳酸化リンゲル投与中の刺入部付近で採血すると一時的にラクテート上昇するかも…しかしNSvs乳酸化リンゲルで大量投与時に大きくラクテートが上がるという報告なし。
 
【敗血症におけるラクテート】
組織低潅流、嫌気性代謝の結果として敗血症においてラクテート上昇が起きるとこれまで一般的に言われてきた。
→しかしこれは主なラクテート産生の原因ではないかも?(特に明確なショック徴候のない患者において)
・アドレナリンストレス→好気性解糖促進
これがラクテート産生の主な原因か?
・その他、クリアランス障害、薬剤効果、微小循環障害、組織異常潅流、ミトコンドリア障害など。
・どこでラクテートは産生されている?
→議論があるも有力候補は肺と骨格筋の2か所。
・内因性カテコラミンが好中球β2受容体を刺激→ラクテート産生↑ 肺にこの受容体が多い
・敗血症時は白血球解糖が起こりラクテート産生↑
・炎症性サイトカイン↑→ない細胞・血液細胞機能不全→臍動脈レベルでの低潅流→ラクテート↑ 微小循環障害の改善に関する研究はこれから。
 
嫌気性代謝と敗血症の関連
・重症sepsisでも、ショックと高ラクテート血症はかならずしも一緒には起こらない。
・酸素供給が増加したら高ラクテート血症は改善するはず?→裏付けできなかった。
・重症敗血症であっても細胞性低酸素はない場合もある。
・敗血症時に筋のpO2はしばしば上昇が見られ、最も酸素を含有しているはずの肺が一番のラクテート産生源である。
 
“Occult Hypoperfusion” と“Cryptic Shock”におけるラクテート
・これらは高ラクテート血症が見られるが、ショックのない患者→死亡率高い。
・感染患者ではラクテートレベル上昇は血圧と関係なく28日後死亡率増加と関連。
ショックになってもならなくても高ラクテート血症であれば死亡率ほぼ同じ。
 
感染症以外でのラクテート】
4 mmol/L を超える高ラクテート血症
23.2%が感染、20%がけいれん発作、残りが感染とは無関係の原因
・外傷患者では高ラクテートは独立した死亡率上昇因子。
ラクテート補正はまだエビデンス不十分。
・けいれん時のラクテート
局所筋肉組織の低酸素→嫌気性代謝→高ラクテート血症
・全身性強直間代発作を有する157人の患者を評価→84.7%がラクテート上昇→1〜2時間以内に多くは改善。
ラクテート上昇の程度と転帰は無関係。激しい運動後はラクテート上昇あり。ボストンマラソンランナーの95%はラクテート3.45 mmol / L以上。
チアミン欠乏は嫌気代謝を誘発しラクテート上昇に寄与する。長期のアルコール摂取、貧しい栄養状態、敗血症、または胃バイパス手術後患者などはチアミン欠乏により高尿酸血症を来たす可能性あり。
・敗血症患者がアルコール障害やチアミン欠乏などの背景を有していた場合チアミン投与により死亡率が減少するかもしれない。
アセトアミノフェンエタノール、メトホルミン、COなどの中毒により高ラクテート血症を来たす場合あり。
・小児重度喘息発作 105人の小児のうち83%が2.2 mmol / L以上、45%が5 mmol / L以上の高ラクテート血症あり。
 
【救急外来におけるラクテート値と患者の予後】
感染症ではラクテート上昇とともに死亡率増加→初期ラクテートレベルは4 mmol / L以上で、院内死亡率は28%。
ラクテートは優れた予後予測因子。
・蘇生中のラクテート低下は死亡率低下と関連。
ラクテートを測定すること自体が死亡率改善と関連しているともいわれる。
ラクテート改善vs末しょう循環改善→28日死亡率に有意差なし。
 
【救急外来でのラクテートの使用】

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