Treatment of hypophosphatasia by muscle-directed expression of bone-targeted alkaline phosphatase via self-complementary AAV8 vector.
【要約】
低ホスファターゼ症(HPP)は組織非特異的アルカリホスファターゼ(TNALP)をコードしている遺伝子に変異が起こることで発症する遺伝性疾患である。これにより骨や歯の石灰化不全が起きる。我々(=筆者ら)は近年の論文で、HPP疾患モデルマウスである TNALP-欠損(Akp2−/−)マウスに、C末端にデカ-アスパルテートを付加したrecombinant adeno-associated virus(組み換えアデノ随伴ウイルスベクター=rAAV)を静脈注射することで治療する方法について示した。今回、より安全かつ臨床応用に適した治療法として、筋クレアチンキナーゼプロモーター(MCK)を介しTNALP-D10を発現する8型AAVベクターを利用した治療戦略を考案し、筋肉に直接注射する形の遺伝子治療の効果について検証した。AAV8-MCK-TNALP-D10がAkp2 (-/-)新生児マウスに注射されると、正常な外観と運動機能を有しながら3か月以上生存することが分かった。X線写真では骨構造の改善も確認できたが、長管骨の成長には制限が見られた。一方でCT写真では低石灰化と海綿骨構造の異常が見られた。以上の結果から、AAVベクターを介した筋特異的TNALP-D10発現は、重症胎児型HPPの治療選択肢となり得ることを示している。
【Introduction】
・HPPはTNALP遺伝子変異よっておこる疾患である。
・タイプによって重症度は様々だが、最も重症である新生児型では、全身性の骨低形成、(胸郭低形成に伴う)呼吸不全、(ALP天然基質の1つPLP欠乏による)けいれん発作などが起こり、生後6か月以内に死亡する確率が高い。
・標準治療は確立されていない。
・疾患モデルマウスであるTNALPノックアウト(Akp2−/−)マウスを用い、実験的治療が試みられている。
・正常な外観でマウスは生まれるも、成長につれ骨形成不全やけいれんなどが見られ、3週間以内に死亡する。
・酵素補充療法(ERT)が提案されているが、何度も酵素注射を繰り返さなければならず、コスト面でも△。
・TNALP-D10発現AVVベクター注射による遺伝子治療はベクターを介したERTと言えるが、単回注射でよく低侵襲でありコストも◎。
・しかし新生児へのウイルス全身投与は有害事象も引き起こしうる。
・では局所注射では?→今回の実験に至る。
【結果】
・まずMCKプロモーターによるTNALP発現が筋特異的に起こるかをin vitroで確認する。
・HEK293, Hela, C2C12(マウス筋芽細胞用細胞株)各細胞にAAV8-MCK-EGFPベクターを導入→C2C12で有意に導入率高い(EGFP発現率高い)
・次にin vivo実験→AAV8-MCK-EGFPベクターをマウスに筋注し14日後に解析
筋肉(骨格筋)、心臓、肝臓、腎臓を分析→骨格筋と心臓(骨格筋有意)でのみEGFPの蛍光が観察された。
→MCKプロモーターにより筋特異的発現が可能。
・scAVV8-MCK-TNALP-D10 (2.5 × 1012 vector genome (v.g.)/body)を新生児(生後1日)Akp2-/-マウスの両大腿四頭筋に注射。
・血漿ALP活性は1U/ml以上でAkp2-/-マウスの生存期間を延長させる(ことが過去の文献よりわかっている)。
・生後30日時点での血漿ALP値
Akp2-/-マウス(n=1): 0.05U/ml
注射後Akp2-/-マウス(n=9): WTマウスの10倍以上→これは90日間維持された。
・筆者らが過去の実験で使用していた非特異的プロモーターと同等の治療効果を筋肉特異的プロモーターでも示すことができる。
scAAV8-MCK-TNALP-D10–treated Akp2−/−マウスの運動能力は?
→未治療マウスは成長不全、けいれんなどが見られ、3週間以内に死亡。
一方、TNALP-D10マウスはWtとほぼ同等の移動(歩行能力)であり、他の運動能力や外観も同等であった。
どの臓器が主に標的になっている?
→90日時点でベクター分布とALP活性を8種の臓器で検討。
・ALP活性:大腿四頭筋で最多(WTでは腎臓)
異所性石灰化は確認できず
治療マウスの骨成長は?
→未治療マウス、治療後マウス、WTマウスの各骨を放射線分析
・未治療マウス: 生まれた時はふつう。次第に骨形成不全、長管骨短縮など目立つように。
・WTと治療後マウスは正常骨構造。大腿骨長は治療後マウスでやや短縮。
→長管骨では成長に制限が見られるものの、骨構造は治療によって改善し得る。
MicroCTによるより詳細な解析
・TNALP-D10マウスは骨密度や骨組織容積比でWTに劣っていた→microレベルでの低石灰化はあり。
組織学的解析
・治療後マウスでは異常な軟骨組織増殖や細胞の不正な並びが見られた。
・WTマウスでは大腿骨で強いALP活性あり。
・未治療マウスではシグナルなし。
・治療後マウスでは成長版付近で低レベルのALP活性あり。
・ALP活性が1 U/mlあっても大腿骨の十分な成長には不十分。
(解析には9生後90日マウスを用いたが、この時点でも生存期間延長に必要とされる1U/ml ALPあるにもかかわらず、骨の成長は不十分であるため)
【考察】
・scAAV8-MCK-TNALP-D10を介した筋細胞形質導入によって、TNALP-D10の持続的な発現が可能であり、致死性HPPの生存期間延長・運動能力回復などに役立つ。
・筋骨格構造の著しい回復が見られたが、長管骨など一部の骨の成長には治療後も制限が見られた。
・重症HPPのより安全かつ現実的な治療となり得る。
。我々は以前にTNALP-D10発現AAV8ベクターを静脈注射することによる治療の有効性を報告したが、これは全身投与であったため、心臓や肝臓など全身臓器に遺伝子導入が起き、生殖細胞などにも障害が起きてしまう可能性があった。
・局所療法の標的として、筋肉は優れている(ある程度のmassがあり、アクセスが簡単で血流が豊富なため)。
・AAVベクターもまた長期遺伝子発現に優れている。既にヘモフィリアや筋ジストロフィーなどでもAAVベクターIMを用いた治療が成功している。
・近年、LPLを発現するAAV1がLPLD(リポタンパクリパーゼ欠損症)の治療としてEUで承認。(今後も同様の実験の発展が期待される。)
・さらに安全に治療を行うため、組織非特異的プロモーターではなく、筋特異的プロモーター(MCK)を使用した。一般的に組織特異的プロモーターは非特異的プロモーターに比べて活性が低いが、conventional single-strand AAV vectorsと比べて迅速かつ効果的発現が得られるとされるscAAVを用い実験を行った。→これらは有効に作用。
・今回2.5 × 1012 v.g./bodyのscAAV8-MCK-TNALP-D10を筋注→生存に必要とされる血漿ALP活性1 U/ml以上を生後90日まで維持、ALP活性は筋に限局して見られた。
この量で生存期間は延長するが、骨構造や石灰化の正常化には不十分。
・これまでの実験では骨評価にX線を用いてきたが今回はmicroCTも使用。→骨の量的評価が可能に。
・病理レベルでは、右細胞の異常な増殖が確認できた→HPPでの正常な骨形成・軟骨増殖の実現は未だ困難。
・今後の課題は血漿中ALP活性をもっと上げること。例えばMCKはより強力な金特異的ファクターに置き換えることができる。出生前診断・治療によって早期に治療介入することや、高用量の酵素注射も有効である可能性がある。
・高用量酵素の注射によって抗体が作られる可能性があり、遺伝子治療における免疫応答の研究も今後重要となってくるであろう。