本日も臨床論文紹介です。
先日の救急外来当直の際に、18歳の精巣捻転を見ましたので、レビューを読んでみました。
Contemporary Review of Testicular Torsion: New Concepts, Emerging Technologies and Potential Therapeutics
【背景】
・25歳以下の男子 年間 10万人中4.5人に起こる。
・未介入で4-8時間痛みが持続していると精巣壊死の可能性が高くなる。手術時には約1/3の症例で精巣が壊死しており、精巣摘除が行われる。
・完治していない精巣が縮小するなどの後遺症が起こり得る。
・患者とその親の多くは精巣捻転の重要性を認識していない。
【医学的・法的pitfall】
・診断の難しさや精巣を失うという精神的ショックゆえ、訴訟の対象となり得る。また不要な手術(精巣捻転を疑い手術を行ったが、精巣捻転でなかった場合)も訴訟の対象となり得る。
・1985-2000年まで2283人の小児患者の後方視レビュー→12-17歳で3番目に多い主訴
・診断ミスを減らすためには全ての片側睾丸痛にagressiveにアプローチすることが必要。
【精巣捻転の疫学】
・bell clapper deformityが特徴的
↓bell clapper(※論文ではなくGoogle画像検索で見つけた画像)
↓bell clapper deformity(※論文ではなくGoogle画像検索で見つけた画像)
・しかし全例に起きるわけではなく、剖検でも最大12%に見られるなど、捻転と関係なく起こる可能性もある。
・中足骨が長い、停留精巣は精巣捻転に関連している。
・外傷と運動(自転車の運転など)が捻転誘発に関与しているとされている。
・寒いと起きやすい?→議論分かれている。
・家族性の報告もあり。11.4%で家族歴が見られたとの報告も。
・INSL3ホルモンとそのレセプターであるRXLF2の遺伝子変異が原因の可能性。
【画像と検査における新たなコンセプト】
・きちんと病歴、身体所見が取れれば画像検査は不要。
・しかしエコー(カラードップラー)は重要な検査。
・ドップラー途絶と精巣実質の不均一性が確認できるときは手術時の精巣喪失を100%予測する。→これがあると逆に緊急ではない可能性も(既に精巣は救えないから)しかし痛みからの解放や精巣コンパートメント症候群を防ぐという観点からはやはり緊急が望ましいかも。
・カラードップラー 感度76%
・これ↑に対し高解像度超音波検査HRUSにおけるWhirlpool Signは感度99%、特異度96%。
↑Whirlpool Sign(※論文ではなくGoogle画像検索で見つけた画像)
・エコー検査の欠点
→熟練の技術者、放射線科が必要
→診断時間の増加につながる?ER医にとっては困難?
・パルスオキシメトリーと同じ原理を用いた近赤外分光法(NIRS)は有効かもしれない。→捻転している精巣では有意に酸素飽和度が低い。
・とにかく病歴聴取と徹底した身体診察!
【外科手技】外科医(泌尿器科)でないので省略
【マネージメントに関する論争】主に小児・周産期の捻転において議論→ER医の関わる範疇でないため省略
【生殖力への影響】
・思春期前後の捻転が生殖能力に影響を及ぼすかどうかは追跡調査が不十分で分かっていない。
・不妊と診断された患者のわず0.5%にしか捻転は見られなかった→不妊への関与は薄い?
・しかし精巣捻転後の精液分析において精子数・運動性・形態などがいずれも正常ではなかったとの報告あり。
・捻転自体はそれほど珍しい病態ではない(4000人に1人)にも関わらず男性不妊の主要な原因ではない。
【虚血による生殖細胞ダメージを緩和する薬剤】
・reactive oxygen species(ROS)scavengersは虚血による細胞損傷から守る効果があるかもしれない。→生殖機能の改善につながる?
・虚血/再灌流傷害による傷害の量の減少におけるホスホジエステラーゼ5型(PDE5)阻害剤の有効性が動物実験で示されている。