今やっている実験ではありませんが、以前やっていた実験で、ベクタープラスミドを2つの制限酵素でカットするというのがあったのですが、その時のことを少し書きます。
今回はEcoRI-HFとPacIの2つの制限酵素でプラスミドをカットし、その後電気泳動を行い、きちんと切れているか確認するというものでした。
もとのプラスミドの長さは11,000bpほどで、2つの制限酵素サイトは近接しているため、2つの酵素で切るといえど、ほぼもとの長さのままのバンドが1本のみ検出される予定でした。
Cut Smart 5ul
EcoRI-HF 3ul
PacI 3ul
Vector 20ul(≒DNA換算3ug)
MQ 19ul
Total 50ul
上記をmixし37℃ 2hr incubationしました。
その結果…
2本のバンドが出てしまっています。それぞれの制限酵素サイトは1か所のみのはずですが、切れるべきでない箇所で切れてしまっているようです。
その後、EcoRI, PacIとともに近接した個所に存在するXhoIを用い、EcoRIとXhoI、PacIとXhoIでのカットを試みましたが、やはり2本のバンドになってしまいます。
1つの制限酵素でカットしてみると…
バンドは1本のみ、バンド位置も正しく、1か所しかカットされません。
次にまずEcoRIでカット→次にPacIでのカットというのを試みてみました。
すると…
ゲルが汚いですが…バンドは1本のみになりました。制限酵素を1つずつ用いるときちんと1か所のみで切断されるようです。
1つずつの制限酵素でカットすると、正しく1か所のみでカットされるにもかかわらず、2つの制限酵素で同時にカットすると、非特異的な場所でカットされてしまうようです。
なぜこのようなことが起きるかいろいろ調べてみたところ…
スター活性
なるものが存在するようです。
Wikipediaにも掲載されています。
反応条件が適切でない場合に制限酵素が本来認識すべき場所とは別の非特異的な場所が切断されてしまうことのようです。
「スター活性の要因としては低イオン強度(25 mM以下)、高pH(8.0以上)、酵素が基質DNAに対して過剰(DNA 1 µgあたり100U以上)、Mg2+以外の2価カチオンの存在、エタノールなどの有機溶媒の存在、そしてグリセロール濃度が高い(5%以上)ことなどが挙げられる」
とあります。制限酵素の溶液にはグリセロールが添加されており、これが多く入りすぎていたことが原因かもしれないということで、以下のように溶液の組成を見直しました。
Cut Smart 10ul
EcoRI-HF 2ul
PacI 2ul
Vector 60ul(≒DNA換算6ug)
MQ 26ul
Total 100ul
初心者にとっては、1ulや2ulを正しくピペットマンでとるというのは難しく、チップの側面に少し溶液がついてしまうことがよくあります。このわずかな違いが問題となり得るようで、20ulピペットマンでなく10ul, 2ulピペットマンを用い、制限酵素の溶液を吸うときは液面にチップの尖端だけを付けるように注意し、チップの側面に液がついてしまった場合は丁寧にぬぐうなど主手技に注意をしました。
それに加え、制限酵素量が過剰になってしまうことの影響を薄めるために全体の反応液量を増やしました。これまでは50ulで行っていましたが、2倍の100ulとしました。
その結果…
無事にバンドは1本だけになりました。
制限酵素によるカットは比較的基本的な実験のように思いますが、想像以上に苦労し、実験の繊細さを感じました。
今後も丁寧な実験を心がけねばと思います。