こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

高齢者の診断のつかない失神:経過観察入院は妥当か?

本日は臨床に関する論文紹介です。

 

週1回、救急当直アルバイトをしていますので、救急関連の論文の中からsyncopy失神に関するものを選びました。

 

救急外来をやっていると失神の患者さんは非常に多く、一晩で必ず1人は来るくらいのイメージですが、診断がいまひとつつかないこともしばしばあります。

 

今回は高齢者のsyncopeに関する論文です。

 

*****************************************************************************************************

Clinical Benefit of Hospitalization for Older Adults With Unexplained Syncope: A Propensity-Matched Analysis

https://www.annemergmed.com/article/S0196-0644(19)30250-1/fulltext

 

【背景】

・失神で救急外来を受診する患者は毎年米国で100万人以上。240億ドルのコストがかかっている。

・高齢者では50%以上が入院となっており、その多くは単に経過観察のためである。

→これに意義があるか検討する。

 

【方法】

・他施設、前向き、観察研究。

・2013-2016年の間に、60歳以上のsyncopeまたは near sycopyで救急外来綬受診した患者のうち、診断がつかなかった患者が対象。

・救急外来受診30日後の予後を、電子カルテ記録調査や電話などでチェック。

・入院した群としていない群でプロペンシティ・スコア・マッチングを用いて比較。

 

※ちなみにsyncope/near syncopyの定義は以下の通り↓

We defined syncope as transient loss of consciousness associated with postural loss of tone, with immediate, spontaneous, and complete recovery.

We defined near syncope as the sensation of impending loss of consciousness without actual loss of consciousness.

 

※行った検査等

全員に12誘導心電図、心臓バイオマーカーチェックを行った。その他の検査は各departmentの裁量に任されていた。 

 

【結果】

・3686人がenrollされ、2492人がfinal cohortへ。

・プロペンシティ・スコア・マッチングを行い532人vs532人で比較。

・マッチング前の特徴としては、入院患者の方が有意に高齢で心疾患保有率が高く、淋菌バイオマーカー陽性率が高かった。

・マッチング後の結果では、入院した群としなかった群で30日後の重篤な有害事象の発生率に差はなかった。死亡率にも有意差なし。

 

★有害事象として多かったもの上位★

1.Any cardiac arrhythmia 2.3% (ex. Ventricular tachycardia (>30 s) 0.2%)

2.Any cardiac intervention 2.0% (ex. pacemaker 0.9%)

3.Internal hemorrhage/anemia 1.0%

4.New diagnosis of structural heart disease 0.8%

 

その他…VF 0.1%, Sinus pause >3 s 0.1%, MI 0.4%, Stroke 0.5%

 

【Limitation】

・観察研究である(RCTでない)。

・サンプルサイズが小さい。

 

 【Discussion】

 ・60歳以上の高齢患者で診断のつかなかった失神を入院させることの臨床的意義は見いだせなかった。

・入院にかかるコストと医原性有害事象を考えると入院は少なくともデフォルト寝毛色とすべきではない。

・また、救急外来受診後に重篤な有害事象が起こるとしてもその平均発症時間は48時間以降であり、24-48時間の入院は意義がない可能性がある。

・マッチング前のデータで入院後有害事が高いのは、入院患者の選択が適切であることを示唆しているものの、多くの患者は外来管理でよいと思われる。

・今後ランダム化試験での評価が望まれる。

 

*****************************************************************************************************

私見・感想など】

 個人的には、高齢独居の場合や家族が強く希望する場合などを除いて、経過観察入院としたことはなかったので、それほど意外性はありませんでした。「まぁそうかな…」といった印象です。

 

 ただ日本の場合は、こちらの文献で検証されている患者層よりさらに年齢が上になると思われ、その分背景疾患・リスク因子も増えると予想されるためその点は注意が必要かと思います。

 

 その他、個人的に以下の点が気になりました。

 

・SAH(くも膜下出血)…頭部CTは義務としていませんが、それでも初回受診後30日以内にSAHとなった方は0人のようでした。LOCで来られる方には頭部CTを撮像することが多いのですが、これは意味がないかもしれません。ただ日本人は世界的に見て脳出血の有病率が高いため、この点は注意が必要かもしれません。

 

・起立性低血圧…Tilt testなどの起立性低血圧スクリーニングも義務付けられておらず、有害事象リストにも項目がありませんでした。なんとなく高齢者では多そうな気がしますが…"Recurrent syncope/fall resulting in major injury"に含まれているのかもしれませんが、これによるとmajor injuryは0.3%しかなく、仮に起立性低血圧を見逃していても重篤な外傷を追うようなことにはならないのでしょうか…。

 

以上です。臨床の論文もときどき読んでいきたいです。