マウスへの移植の機会があり、造血幹細胞の長期骨髄再構築能を見る方法としてのcompetitive repopulation assayについて調べました。
造血幹細胞の同定法(HSCに再構築能があるかを評価する方法)にはいくつかあるようです。
以下引用↓
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a.脾コロニー形成法(図1A)
致死量放射線照射したマウスに同系マウスの造血細胞を静注すると、8~14日目に脾臓表面に隆起(コロニー)が認められる。各々のコロニーが種々の血液細胞から成っているが、1個のコロニーは1個の幹細胞に由来しており、この脾コロニーを形成する母細胞はCFU-S(colony forming unit in spleen)と呼ばれる。8日目に形成される脾コロニー(Day 8 CFU-S)を形成する細胞は赤芽球が主体であるのに対し、12日目形成される脾コロニー(Day 12 CFU-S)は、赤芽球のほかに顆粒球や巨核球、更にはBリンパ球まで含み増殖能も高く、多能性幹細胞に由来している。Day 12 CFU-Sは多能性幹細胞の指標として用いられている。また、抗癌剤である5-fluoro-uracil(5-FU)投与後に残存する造血幹細胞は非常に高い増殖能を示すことより、CFU-Sの母細胞にあたるpre-CFU-Sと呼ばれる。当初未分化な造血幹細胞の指標になると思われたDay 12 CFU-Sも実は不均一な細胞集団であり、必ずしも未分化な造血幹細胞の指標にはなりえない。
b.長期骨髄再構築能
移植した細胞により致死量放射線照射されたマウスの造血系を再構築し、長期間維持する事ができるか否かを観察する方法である。現在、造血幹細胞の多分化能と自己複製能をみる上で最も信頼性が高い。マーカーとしては、ネオマイシン耐性遺伝子の発現や、雄雌の性染色体、コンジェニックマウス等が用いられている。この方法では定量化が困難であったが、最近ではドナーの造血細胞とともにレシピエントの造血細胞を移植し、その再構築の割合を調べるcompetitive repopulation法が用いられるようになった。また、ヒトにおいてはマウスのようにin vivoの移植実験系を組むことは困難であるので、リンパ球が欠如するために拒絶反応を起こさない免疫不全マウス(scid mouse)にヒトの造血幹細胞を移植する Scid-huマウスが用いられる。この系では、マウスの中で長期間ヒトの造血機構を維持することができる。
※他に、2種類の方法について言及されている。
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上記にもある通り、現在、移植した造血幹細胞に長期再構築能があるかどうかを評価する方法としては、competitive repopulation法が最も優れているようです。
これは、目的のHSCや機能を見たいHSC(例えばKOマウスのHSCやウイルスベクターによりtransductionを行ったHSC)と同数のWTのHSCをmixさせて移植する方法です。
これが一番最初に発表されたrepopulation assayに関する論文のようです(おそらく調べた範囲では)。
http://www.bloodjournal.org/content/bloodjournal/55/1/77.full.pdf
上記論文といくつかのサイト(学術論文ではありませんが…)を参考にしてみるとWTのHSCをmixさせる理由は以下の通りです。
- 放射線によるレシピエントマウスの死亡を防ぐ(テストするHSCの再増殖能が不明であるため)。
- 2種類のキメリズムを比較することによって(WTのキメリズムを参考にすることによって)テストするするHSCの再構築能を評価する。
参考サイト↓
前者のブログサイトにもあるように、双方のキメリズムを比較するという方法は、両者の細胞がFACSを用いてすぐに区別できることが前提となっています。
(上記ブログ記事中にもある通り、GFP/tdTomatoあるいはCD45.1/CD45.2といったように異なる蛍光や異なる抗原を呈していることが重要)
マウスでは遺伝子操作が容易なため、これが実現できるが、ヒトでは(可能ではあるが)困難なため、実質的にはマウスでしかできない方法のようです。
移植の結果を判定するのは1か月後の予定なのでしばしそれを待つことにします。