久しぶりの記事更新。だいぶ間が空いてしまったが基礎系の記事の紹介。
Bogeska R, Mikecin AM, Kaschutnig P, et al.
Inflammatory exposure drives long-lived impairment of hematopoietic stem cell self-renewal activity and accelerated aging.
Cell Stem Cell. 2022 Jul 12:S1934-5909(22)00261-2.
Introduction
- 外傷や感染、自己免疫機序での炎症が起きたとき、成熟血液細胞はサイトカインを産生する主要細胞。しかし未成熟な造血幹細胞=HSCや前駆細胞も炎症の影響を受ける。
- 上記のようなストレスによって、造血は活性化し、休止状態にあるdormant HSCが細胞周期に入ることが分かっている。しかしこの反応は一過性で、しばらくすると元通り休止状態に戻ると考えられている。
- しかし若齢期に受けた炎症刺激がその後のHSC機能にも影響を与える可能性もある。例えばその後の移植後再増殖能に影響が出たり、骨髄系に偏った造血をするようになるなど。しかしこれについては十分に研究されていない。
- 本論文では炎症刺激によってHSCが受ける機能制限が可逆的なのか、長期に続くのか(永続的に続くのか)について調査する。
Result
★若齢期の炎症刺激はHSCに不可逆的かつ累積的な機能障害を起こさせる。
- 今回はHSCにsterile inflamation=無菌性炎症を起こさせる試薬 Toll-like receptor 3 agonist polyinosinic:polycytidylic acid (pI:pC)を使用。
- 週2回の(pI:pC)注射を4週間(合計8回)~12週間(合計24回)注射したマウスのHSCを分析。(pl:pCの影響は4日ほどで回復する。解析は最終投与から4週間後)
→HSCの数や細胞組成には変化なし。しかしHSCの機能の低下が見られた。
クローン形成能の低下が見られ、休止細胞が少ないことが示唆された。 - 前駆細胞ではこのような影響は見られない。つまり完全に回復している。未熟なHSCでのみ炎症ストレスによる機能低下が蓄積している可能性がある。
- 炎症刺激のサイクルが多いほど移植後キメリズムは減少していく。
- 次に12週間(合計24回)注射後の回復期間を5週、10週、20週として影響を調査→20週回復期間をおいてもキメリズムは上がらず。
- では(pI:pC)注射マウスをレシピエントに用いたらどうか?
→放射線照射無しで移植する場合、キメリズムは注射マウスの方が高く、長期にわたって維持される。
→炎症負荷によってレシピエントHSCの機能が抑制され、生着が蘇秦されたと考えられた。 - M.aviumを炎症因子として用いて同じ実験を実施。
→やはり(pI:pC)と同様、炎症惹起マウスをドナーとして用いるとキメリズムは低下し、炎症回復期間を長く取っても有意差なし。
★炎症によってHSC老化が促進される。
- 筆者らは2つのエピジェネティックな加齢関連減少を評価した。
①H4K16ac mark: 過去の報告で加齢LT-HSCに存在しているとされている。
→(pI:pC)投与マウスで減少が見られた。
②the DNA methylome clockをLT-HSCで実施。(生物学的年齢を評価する方法)
→炎症惹起マウスは、生物学的年齢はそのままにエピジェネティックな年齢は年を取るような結果を示した。 - 炎症惹起マウスでは骨の脂肪増加など加齢徴候が見られた。
★LT-HSCは炎症刺激によって自己複製能が低下する。