何かと話題のClonal hematopoiesisについてです。
Heyde A, et al.
Increased stem cell proliferation in atherosclerosis accelerates clonal hematopoiesis.
Cell. 2021 Feb 17:S0092-8674(21)00092-1.
<基礎知識>
Clonal hematopoiesisについては過去にも記事を書いています。
上記の一部抜粋。
- 特定の遺伝子変異(DNMT3やTET2)が起きると、HSCは競争力を獲得し、ニッチ内でのクローン増殖につながると考えられている。
- クローン造血は、加齢に伴い蓄積していく体細胞変異と、ニッチの変質(変異クローンに有利なようにニッチの性質が変化する)によって、高齢者に頻繁にみられる。
- これら変異を持った血球が増殖していくと、やはり変異をもった子孫がどんどん増えていく。
- クローン造血は血液悪性腫瘍の発生率を上げるとされており、さらにそれだけでなく冠動脈疾患、脳卒中などのリスク増加とも関連しているとされている。あらゆる原因での死亡率の増加につながっていると報告されている。
Introduction
- 抹消を循環している血液細胞は、造血幹細胞(HSC)が生み出したものである。
- 加齢の間に、遺伝子変異を伴った少し性質の異なる血液細胞がクローン性に(無秩序に)増加していく場合がある。→クローン造血
- クローン造血を有する固体は血液悪性腫瘍の発生率が高いだけでなく、冠動脈疾患や脳梗塞の発症にも関連していることが報告されている。(アテローム性動脈硬化は2倍に増加)
- 過去の研究では、アテローム性動脈硬化症で持続的に造血系が活性化することを示している。
- 動脈硬化モデルマウスでは、造血幹細胞・造血前駆細胞の割合が増加、単球も増加する。→造血幹細胞増殖が増加している。
- ウサギやブタでも同様の傾向が見られる。
- まだアテローム性動脈硬化と造血が同関連しているかは十分に分かっていないが、いくつかの説はある。
①脂質はHSPC調節に関与している可能性がある; HDL↑→HSPC増殖抑制
②サイトカイン上昇(脂質異常に伴って全身炎症が起き、サイトカイン↑が惹起される可能性がある)によって造血活動が活発化される可能性がある。 - TET2, DNMT3Aの喪失(クローン造血でしばしばみられる遺伝子変異)
→骨髄細胞の炎症誘発性表現型を誘発
→炎症性サイトカイン発現↑
→プラーク形成加速 - 骨髄細胞を標的とした治療で動脈硬化を抑制できる?→これはさらなる研究が必要。
- 脂質異常とアテローム性動脈硬化の進行がHSC増殖を促進するとしたら、クローン造血進行にも関与している可能性がある。
- 筆者らは数理モデルなどを用い、冠動脈疾患を有するヒトにおけるHSC増殖が、クローン造血増加につながることを説明できることを発見した。
Results
- 例えば、HSCにある遺伝子変異が起きたとする。これが全HSCプールの1%に起きたとするとして、1回のHSCの分裂で(1+s)倍になるとすると、1年で4回HSCが分裂するとしたら、1年間で変異アレル頻度(VAF)は1x(1+s)^4%となる。
- しかし、例えば感染や炎症などが起き、分裂回数が1年に9回になったとすると1年間で変異アレル頻度(VAF)は1x(1+s)^9%となる。
→このように指数関数的に増えていく可能性がある。 - つまり、この変異がどの時点で起きるか(早期に起きれば起きるほど拡大しやすくなる)、分裂頻度がどれくらいかがVAFの増加には重要となってくる。
- Apo-/-マウスにアテローム誘発食を食べさせるとHSC分裂が促進され、頻度が増加。→動脈硬化によってHSC増殖が促進される(代謝回転↑)
現在、アテローム性動脈硬化のモデルマウスとして多く使われいるのがApoE欠損マウスである。ApoEは、LDLやHDLなどのリポタンパク質を構成する主要アポリポタンパク質の一つである。主に肝細胞で産出された後、コレステロールを含む脂質の運搬に関与する。ApoEはLDLレセプターのリガンドとして機能し、リポタンパク質の細胞内取り込み、言い換えれば血中からの除去に寄与する。
(中略)
ApoE欠損マウスは1992年、米国ロックフェラー大学(Rockefeller University)のPlumpらによって作製された(2)。彼らはES細胞における相同組換え(遺伝子組換え)を用いてApoE欠損マウスを作製し、血漿コレステロール値を野生型マウスと比較した。低脂質・低コレステロール食餌で育てると、野生型の血漿コレステロール値は60 mgdlであったのに対して、ApoE欠損マウスは494 mgdlであった。さらに高脂質食餌にすると、野生型は132 mgdlの上昇に留まったのに対してApoE欠損マウスは1821 mgdlにも上った。さらにApoE欠損マウスは、10週齢ですでに大動脈、冠動脈、肺動脈でアテローム性動脈硬化が認められた。このことから、ApoE欠損マウスがアテローム性動脈硬化のモデルマウスとして使われるようになった。
出典:セツロテック
- 次にヒトで解析。健康な人と虚血イベント歴のないアテローム性動脈硬化症の患者から骨髄を収集。
→マウスモデルと同様にアテローム性動脈硬化症の患者でKi67陽性HSCの割合の増加が観察。 - マウスやウサギモデルでは動脈硬化に伴う造血活性増加は慢性的かつ進行性。
→ヒトでも検証したすべての年齢でHSC増殖率が対照群平均を上回り、ヒトにおいてもやはり慢性的かつ進行性であることを示唆している。 - これらをもとに数理モデル解析を実施。実験データ等をもとにHSCの増殖率bとdriver fitness advantage sを推定し、クローン造血がいつ起こるかをシミュレーション→ドライバーVAFは83.4歳でクローン造血診断しきい値の2%に達することが分かった。
- では動脈硬化がこれにどのような影響を?
→マウスモデルを参考に40歳でHSC増殖率が1.5倍に増加すると仮定する
→クローン造血出現年齢が83.4歳から68.9歳に低下
(動脈硬化によって増殖率が2倍または3倍に上昇したとすると、さらにそれぞれ61.7歳および54.5歳となる)
論文はまだ続きますが、長くなってきたのでここまで(だいたいの論旨はここまで終了)。要約すると、動脈硬化によってHSC分裂が促進し、遺伝子変異の増殖が加速→クローン造血につながり、心血管イベント発生に関与しているのでは?といった感じです。