いつもHSC=hematopoietic stem cellではなくHSP=highly sensitive personの話。
「私ってHSPなんですか?」「私HSPなんですけど…」とか言われる機会が増えた気がするので調べてみました。
ちなみに上記のような「HSPと診断してほしい」みたいな質問や申し出は私としては(医師全員?)少々困ります。なぜかというとHSPというのは心理学の概念であって医学的概念でも医学用語でもなく、病気でも医学的診断名でもないからです。
なので「HSPと診断する」というのはちょっと間違った言葉なわけです。
例えば数学が苦手な人が「数学苦手症候群」という疾患で何かの治療を必要とするかというと全くそんなことはありません。病気でもなんでもなくただの「数学が苦手な人」です。
しかしやっぱり患者さんから聞かれたり診察で耳にする機会が増えてきたので、調べてみます。
心理学者であるエレイン・アロン氏(妻)とアーサー・アロン氏(夫)の夫婦が開発した感覚処理感受性(Sensory-Processing Sensitivity:以下SPSとする)という指標が高い人がHSP=highly sensitive personにあたるそうです。
日本人心理学者の高橋氏がこれを日本語訳しています。
A. Takahashi. Development of Japanese version of the 19-item highly sensitive person scale (HSPS-J19). Jpn. J. Res. Emotions, 23 (2016), pp. 68-77 (in Japanese)
上記の19項目を
1.全く当てはまらない から 7.非常に当てはまる
の7段階で評価する。
得点範囲は19点から133点の間となる。
これを作成した高橋氏によると
全体平均 86-87点
男性平均 83-84点
女性平均 89-90点
だそうです。
そして「〇点以上の人はHSP」というのも特にない。この理由はいくつか文献を読んでみての私の勝手な想像だが、おそらく年齢や性別などによってこのスコアの平均は変化していくものと思われる。(加齢に伴ってこのスコアは減少していくという文献あり: Ueno Y, Takahashi A, Oshio A. Relationship between sensory-processing sensitivity and age in a large cross-sectional Japanese sample. Heliyon. 2019 Oct 3;5(10):e02508.)
なので、例えば「〇点以上の人はHSP」としてしまうと、「70代男性でこれに当てはまるのは10%のみだが、20代女性でこれにあてはまるのは50%いる」のような事態が生じてしまう可能性がある。50%も当てはまってしまうと、それはもう「人口の中でも特に敏感な人」とは言えない。
上記指標を使った研究論文などでは、例えば「100人の成人を対象にHSPS-J19を実施し、上位25%をHSPとした」のように、集団の中で点数が高めの人をHSPとしている。
ちなみに上記は大学生以上用であり、小児は別のスケールを用いる。
これまでに感覚処理感受性を測定するための心理尺度がいくつか作成されている。一つは、上述の27項目版のHSP尺度である[2]。その日本語版には、19項目版[17]と10項目版[18]があり、大学生年代以降を対象にしている。子どもを対象にする場合には12項目版[19]と21項目版[5]のHighly Sensitive Child(HSC)尺度が用いられる。その日本語版には11項目の青年期前期用[20]と12項目の児童期用[21]がある。
出典:Wikipedia
※いろんなサイトなどに「人口の20%がHSPにあたるとされています」などと書かれているが、HSPの人を上記のように定義しているとすれば全く当たりまえの結果である。「特に敏感な人が人口の20%もいる」のではなく「人口の中で敏感度ランキングをつけて上位20~25%を特に敏感な人と考える」としているわけである。
<その他HSPに関する文献情報いろいろ>