こりんの基礎医学研究日記

都内の医大を2014年に卒業。現在は大学院で基礎研究中。日々の研究の中で疑問に思ったことや勉強したことなどを主に自分のための備忘録として書いていきいます。ときどき臨床の話や趣味の話も。必ずしも学術論文等が元となっていない内容もありますので、情報の二次利用の際はご注意ください。

【文献紹介】りんごで神経細胞活性化?

普段読んでいる論文とテーマが違いますが、最近Stem Cell Report誌で最も読まれている文献だとのことで、なんとなく内容も面白そうなので、読んでみました。

 

Ichwan M, et al.

Apple Peel and Flesh Contain Pro-neurogenic Compounds.

Stem Cell Reports. 2021 Mar 9;16(3):548-565.

 

<基礎知識>

  • ケルセチンは、多くの果物や野菜などの食物に含まれている植物栄養素フラボノイドの1つであり、抗酸化作用、抗炎症作用、動脈硬化予防作用などがある。
  • また古くから黄色の染料としても用いられてきた。
  • フラボノイドは認知プロセスに関連する分子シグナル伝達に影響を与えることが知られており、例えばその中でもレスベラトロール(ポリフェノールの一種)などは有名である。
  • レスベラトロールや緑茶に含まれるEGCGなどは成人において海馬神経の新生に関与していると報告されている。
  • 今回筆者らは、世界中で最も消費される果物の1つであるりんごに注目した。りんごの皮に最も多く含まれているフラボノイドであるケルセチンが海馬神経新生に関与するかを調査。

(一部はWikipediaを参考に作成)

 

<Results>

  • まずは、最適なケルセチン濃度を実験から導き出す→25μM 多すぎると細胞死が増加してしまう。
  • 神経前駆細胞(NPC)は、成長因子を除去することによってニューロンやアストロサイトに分化するように誘導することができるが、一方で細胞死増加にも繋がる。しかしケルセチンを添加すると成長因子除去後も生存細胞が2倍に増加。
  • In vivo実験でもケルセチン培養群では新規ニューロン数が増加。
  • ケルセチンは内因性抗酸化物質とAKT経路活性化を誘導する。
  • では同じ作用をりんごの皮や果肉が示すのか?→6種類のりんご品種を比較してどれが最もフラボノイドが豊富か調査…ピノヴァという品種が最高
  • ピノヴァの皮も果肉も、in vitroでは海馬神経球数増加に関与。
  • しかしりんごジュースをマウスに与えても、海馬機能テストの結果は向上せず、海馬神経新生も増えず。
  • りんご果肉抽出液にてNPC増殖効果が得られることがわかり、これがDHBAによるものであることがわかった→市販DHBAでも同様の効果あり。
  • 3,5-DHBAはin vivoNPC増殖と神経新生を増加させる

 

<Discussion>

  • りんごは皮にも果肉にも神経細胞維持や新生を促す作用あり。
  • このような天然化合物は、広く消費される果物や野菜に豊富であり、神経新生などに有益な効果がをもたらすものがまだあるかもしれない。
  • 転写解析から、PI3K-AKTおよびNRF2-KEAP1経路がこれに関与していると考えられる(これは実際の本文では言及されているが本ブログのResultsセクションでは言及せず)。
  • 過去の研究では、ヒトを対象とし、りんごジュース補充が認知機能改善に寄与するという報告もあったが今回マウスの実験ではそれは確認できず。これはりんごジュースのケルセチン濃度が低すぎるからである可能性がある。
  • またフラボノイドとは無関係の重要因子としてDHABを発見。これは新生児細胞の成熟率増加にも寄与。

 

私見

りんごは体にいいイメージでしたが、実際過去にも認知機能低下防止効果を認めるなどの論も出ているのですね。今回のマウスではそのような効果はみられなかったものの、それでもこれ論文を読むとりんごに秘められた可能性を感じますね!あと皮の方がケルセチンが豊富な様子が、食べるなら皮ごと食べたほうがいいということなのでしょうか。今度から心がけてみます。

 

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リンゴ事典より